この記事の連載
フィリップ・ンさんインタビュー
テレンス・ラウさんインタビュー
――劇中では、アクション映画が下火になった香港映画界を取り巻く現状もリアルに描かれています。
現在の香港映画界はあまり景気が良くなく、映画館もどんどん閉館に追い込まれているのですが、こういう状況下で働くスタントマンたちはどういう生活を送っているのか? 正直、彼らが置かれている立場は、かなり深刻です。
本作を通して、華やかなスターを支える脇役であり、裏方であるスタントマンの存在をみなさんに知ってもらうということは、とても意義があることだと思っています。だから、やはり私にとってスペシャルな映画なのです。

アクションに対する異なるフィロソフィー
――ワイのモデルとなった実在のスターはいるのでしょうか?
監督をはじめ、誰からも「誰がワイのモデルで、こんなエピソードが映画化されている」といったことについて聞いていません。ただ、実際に脚本を読んだとき、いろんなスタントマンの経歴やバックグラウンドを抽出して、ワイというキャラクターに凝縮しているように思えました。もちろん、映画としても特定の人物の伝記ではないですし、自分としてもこちらの方が演じやすい。ワイというキャラクターを通して、「彼はアクションに対してどんな哲学を持ち、何を求めているのか?」ということを伝えられたらいいと思いました。
――本作で再起を懸けるアクション監督・サム役を演じたトン・ワイさんは、少年時代に『燃えよドラゴン』(1973年)でブルース・リーと共演した伝説のアクションスターです。トン・ワイさんとの共演はいかがでしたか?
私が初めてトン・ワイさんと仕事をしたのは、ニコラス・ツェーさんが主演したドラマ『詠春 The Legend of WING CHUN』(2006年)でした。サモ・ハンさんやユン・ピョウさんといった先輩も出演するなかで、私は小さい役をもらいました。トン・ワイさんはアクション監督を務めていたのですが、私がアメリカで詠春拳を教えていたことをご存じで、「役者としてだけでなく、詠春拳の顧問として意見を出してほしい」と言ってくれました。
それ以来、いろんな作品でご一緒していますが、本当に正義感に溢れる大先輩です。後輩の面倒見も素晴らしく、みんな彼のことが好きなのですが、撮影現場ではいつも真剣な表情を浮かべているんです。でも、機嫌が悪いんじゃなくて、作品に対する要求が高いだけ。今回は初めて俳優として共演することができて、本当にラッキーで光栄なことでした。
――本作で描かれるアクション哲学については、どのように捉えましたか?
劇中の撮影現場では、ワイのように安全を第一に重要視する人間と、トン・ワイさんが演じたサムのように効果や迫力を重要視する人間がぶつかり合います。それはアクション映画、あるいはアクションそのものに対するフィロソフィーの違いといえるかもしれませんし、そのことについて、監督は徹底的に描こうとしていたと思います。
2025.07.26(土)
文=くれい響