恐怖症は救いになるかもしれない

――梨さんの作品には異界に惹かれる人が出てくるような気がします。『恐怖心展』に先だって開催されて話題を呼んだ『行方不明展』もそうした面を含んでいましたね。
言われてみるとそうかもしれません。行方不明は絶望にも希望にもなる、という描き方をしたのが『行方不明展』で、今回の『恐怖心展』や「恐怖症店」では恐怖症は救いになるかもしれないという視点を含んでいます。人の心にはそういう動きがある。それを断罪するわけでも全肯定するわけでもなく、そういうものとして描くには小説というメディアが向いているとも感じました。
――恐怖症を売る店という設定は、人間の心を掘り下げていくうえで、とても優れているなと思います。まだまだ売るべき恐怖症はありそうですし、シリーズ化できるのでは?

まだ具体的な考えはありませんが、店主とカタが色んな時代に現れて、恐怖症を売るという連作にはできそうですよね。それと恐怖症と同じくらい関心がある題材は“性愛”。作中にも依存症や性愛を販売する店が出てきますが、それらもアイデンティティと深く関わるものだと思うので、いつか書けたらいいなと思います。
――梨さんは『恐怖心展』のようなイベントの企画、舞台や映像作品にも携わっています。さまざまなメディアで恐怖を表現している梨さんにとって、小説を書くというのはどんな意味を持っていますか。
「恐怖症店」を書いていて再認識したんですが、やっぱり小説をやっている時が一番楽しいんです。短編小説としては過去最大の文字数だったんですけど、手が止まることなくすらすら書けました。今後もいろんな分野に関わることになると思うんですが、小説は自分の中の軸として大切にしていきたい。最近は作家の枠にとらわれない活動をする人が増えていますよね。そんな状況の中で、『恐怖心展』や「恐怖症店」は自分なりに納得のいくものが作れたと思っています。もちろん独立した作品になっていますが、両方楽しんでいただくと、恐怖についてこれまでと違った視点が得られるかもしれません。
》【前篇】「人って怖いものについて語る時、妙に目がきらきらしていませんか?」梨&大森時生&株式会社闇が再集結。約50種類の“恐怖症”を擬似体験できる『恐怖心展』が開幕
梨(なし)
インターネットを中心に活動するホラー作家。2022年、『かわいそ笑』で書籍デビュー。「その怪文書を読みましたか」「行方不明展」「恐怖心展」等展覧会の企画から、イベント・テレビ番組「祓除」構成、映像作品「マルクト情報テレビ」 「マルクト ~あなた、誰ですか?~」 原案・監修、漫画『コワい話は≠くだけで。』原作など、多方面で活躍。他の著書に『ここにひとつの□がある』『お前の死因にとびきりの恐怖を』『自由慄』『6』や、『つねにすでに』(株式会社闇との共著)、謎解きゲーム集『5分間リアル脱出ゲーム おしまい』(SCRAPとの共著)などがある。


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恐怖心展
会期:7/18(金)~8/31(日)
会場:BEAMギャラリー(東京都渋谷区宇田川町31-2 渋谷BEAM 4F ※渋谷駅徒歩5分)
開催時間:11:00~20:00 ※最終入場は閉館30分前まで ※観覧の所要時間は約90分となります
料金:2,300円(税込) ※小学生以上は有料
主催:株式会社闇、株式会社テレビ東京、株式会社ローソンエンタテインメント
会場協力:東急不動産株式会社
企画:梨、株式会社闇、大森時生(テレビ東京)
医学監修:池内龍太郎(精神科医)
公式HP:https://kyoufushin.com/
SNS:X(@kyoufushinten)・Instagram(@kyoufushinten)・TikTok(@kyoufushinten)
ローチケにてチケット好評販売中 https://l-tike.com/kyoufu2025/

2025.07.20(日)
文=朝宮運河
撮影=山元茂樹