抑えてきた感情が、舞台で自然にあふれるように

――役者経験を通して、新たな堀井美香を発見できそうですか?
先ほどの話にも通じますが、私はこれまで感情をすごく大きく出すことはしてこなかったんです。ずっとそれは避けてきたし、ぐっと心の中で抑え込んできた人間でした。喜怒哀楽を人と分かち合うことはあまりやってきていないんですね。
そんな私の性格を深作さんにはすぐ見抜かれました。本読みのときに、みなさんがいる場所からちょっと離れて声を出していたことがあるんです。すごく感情的な台詞だったんですけど、それを聞かれたくなくて、自分だけでひっそりとやりたかったという思いがそのときはありました。それを深作さんに指摘されたときはドキッとしました。
スーさんにもよく指摘されますが、私はこれまで感情を外に出さないことを美徳とし、嫌な部分や恥ずかしいところを人に見せないように生きてきすぎているんですよね。
でも、感情の広がりというものは、気持ちだけではなく、動きとしても表現されるものじゃないですか。舞台の稽古を1ヶ月してきて、今はそれが普通にできてきているんですよね。自然と感情表現が舞台仕様になってきているのかな。体の反応が変わってきたと同時に、意識も変わってきているんだなと感じています。
53歳の初挑戦。「知らない世界に飛び込む」ことの意味

――同年代の女性の方々に伝えたい、本作の鑑賞ポイントを教えてください。
私が53歳で初めて舞台に立って、もしやり遂げたとしたら、それは一つの意味があることだと思います。まったく知らない世界に飛び込んで、とりあえずゴールまで這っていったという経験は糧になる。そう信じています。だからこそ、観ていただいた方々にも、専門分野外でもやりたいことをやることや、この年齢から新しいことを始めることは、全然変なことじゃないよ、可能性が広がるよ、ということは感じていただけると思います。
フェードラという人物は、全部を捨てた人を目の前にしてようやく、自分を変えることができるんです。あなただったら、自分を変える発動点はなんですか? そのきっかけに目をつぶっていないですか? という問いに向き合いながら鑑賞していただけたら嬉しいです。
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深作組+水戸芸術館 プロデュース公演『フェードラ―炎の中で―』

アテネの王テーセウスの妻フェードラは、女ざかりを過ぎた喪失感に囚われていた。もう一度、人生の喜びと輝きを取り戻したい。そんな願いを胸に抱いていた彼女の前に、ある日突然、長男デモフォーンの未来の花嫁、美しき少女ペルセアが現れる。ペルセアは若く、反抗的な〈魔性の女〉でもある。フェードラはまるで天災や事故に遭遇したかのように、唐突にペルセアを愛してしまう――。痛いほど激しく、炎のように熱烈に。
作:ニノ・ハラティシュヴィリ 翻訳・ドラマトゥルク:大川珠季 演出:深作健太 音楽・演奏:西川裕一
出演:フェードラ 堀井美香、アカマース 市川蒼、デモフォーン 白又敦、ペルセア 佐竹桃華、パノペウス 宮地大介、テーセウス 加藤頼
会場 水戸芸術館 ACM劇場
日時 2025年7月5日(土)・6日(日) 14:00開演(13:30開場)
料金 S席(正面1・2階席)7,500円 A席(脇正面1・2階席)6,500円(全席指定・税込、未就学児入場不可)
水戸芸術館チケット予約センター 電話番号 029-225-3555
https://www.arttowermito.or.jp/ticket/

2025.06.27(金)
文=綿貫大介
撮影=志水隆