【あの本】「20代前半、中村文則さんの世界観にハマりました」(吉沢さん)

一方、吉沢亮さんが強く惹かれた一冊は、中村文則の『銃』。最近は本を読む時間があまりとれていないものの、中村文則の著作をいろいろ読んでいた時期があるそう。
「20代前半の頃に中村文則さんがものすごく好きで、特に『銃』がとても好きだったんです。中村文則さんは人間の汚い欲望をスタイリッシュに描く方という印象で、男が憧れる世界観なんです。『銃』では、拳銃のディテールの説明が微細に表現されていて、さっき話してくれた物質の話に近い、フィジカルに感情がすごくのっている感覚です。とにかくすごくハマってました」(吉沢)
中村文則の小説世界について語る時、吉沢さんの語り口にはある種の熱が宿っている。吉沢さん曰く、いわゆる“ハードボイルド”ではなく「かっこいい闇具合」があり、「あの世界観の男に本当になったら、だいぶやばい」と笑いながらも、登場人物たちに役者として惹きつけられるものがあるといいます。
「普段の生活ではほとんど触れることのない感情や状況を、どう表現するか。実写化や、自分がお芝居する視点で見ると、魅力的なキャラクターがいっぱいいるんです」(吉沢)
中村文則の小説では、社会の道徳としての善悪ではなく、人の内面の奥深くにある闇を掘り下げ、自己の存在や死生観を問うテーマが描かれている。そうした深みを俳優としてどう表現するか、吉沢さんはそこに惹かれているとのこと。
「例えば『掏摸(スリ)』には、理屈を超えた“意味のない悪”が存在します。“悪は正義の裏返し”で別方向の正義という描かれ方も多い中、“こんな悪も存在するのか!”という衝撃がある。『こういう芝居をしてみたい』と思うことが僕は多いです。実写化された『悪と仮面のルール』に出演させてもらった時の、ああいう際どいキャラクターも、演じていて本当に興味深いです」(吉沢)
2018年の映画『悪と仮面のルール』に、吉沢さんはテログループ“JL”のメンバーの亮祐役として出演。実はこの映画には、当時12、3歳だった板垣さんも幼少期の姿として出演しています。共演シーンこそなかったものの、ふと挙げた作品で共に出演していた偶然に、「そういえば一緒に出てたよね!?」と盛り上がるふたりでした。
2025.07.04(金)
文=あつた美希
撮影=橋本 篤
ヘアメイク=吉沢:小林正憲(SHIMA)、板垣:KATO(TRON)
スタイリスト=吉沢:荒木大輔、板垣:伊藤省吾 (sitor)