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「澤瀉屋以外の俳優が演じたことで、古典になった」

――新作と古典歌舞伎、どちらにもご出演されている隼人さんから見て、これから歌舞伎はどうなっていくと思いますか。

隼人:歌舞伎は伝統芸能であり“伝承芸能”だと考えています。何が歌舞伎を歌舞伎たらしめるのか、まだしっくりくる定義はよく分からない。口伝だったり、資料だけで残っていたりする作品も含めて先輩達からの教えを乞い後世に繋げるのが歌舞伎なんじゃないか。これが、今の僕の考えです。とにかく、ありとあらゆる役、作品、心構えを先輩方から教わって古典を守ること。

 でも、守ってばかりでもダメで、新作歌舞伎という形で、新たな歌舞伎の道も模索していくべきだと思います。ただ、新作歌舞伎と言っても、たとえば『ONE PIECE』であっても、古典の名場面オマージュの集合体のようになっていくんです。

――『ONE PIECE』では早替りや本水(舞台上で本物の水を使う)、宙乗りなどがありました。

隼人:歌舞伎好きな方は「ここはあの演出取り入れたんだ」ってなる。ある意味では、歌舞伎は演出と演技の方法が確立していて、試されつくした状態と言えます。「新しい古典歌舞伎」なるものを作れたら本当にすごいですよ!

――新作も、いずれ新作ではなくなっていきます。初演がもう20年前、のような作品も増えてきていますよね。

隼人:僕は『ヤマトタケル』のヤマトタケルを昨年つとめさせていただきましたが、その時、監修の石川耕士さんから「澤瀉屋以外の俳優が演じたことで、古典になった」と言われて。

――ダブルキャストの市川團子さんは澤瀉屋ですし、まさにお家芸の演目です。

隼人:澤瀉屋さん以外で初めて本公演でヤマトタケルを演じたのが僕でした。「七月大歌舞伎」の『土蜘』のような新古演劇十種(※『土蜘』はこのうちのひとつ)や歌舞伎十八番がなぜ受け継がれているのかと言えば、他の家、俳優も演じているからです。僕もこの先新作歌舞伎を作るならば、後輩に、「あ、この作品、今度自分がやりたい」と思ってもらえるような作品作りがしたいです。

2025.06.27(金)
文=宇野なおみ
写真=山元茂樹