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 大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』で長谷川平蔵役を演じ、お茶の間の人気を集めている中村隼人さん。前回では、歌舞伎の世界でも活躍の場を広げていることについてもお伺いしました。7月の大阪松竹座「七月大歌舞伎」の出演にも、過去の様々なことが繋がっているようで……。

【初めから読む】中村隼人さんインタビュー #1


『野崎村』は鴈治郎おじ様に教わっています

――映像や歌舞伎両方でご活躍ですが、大阪松竹座での八代目尾上菊五郎、六代目尾上菊之助襲名披露の「七月大歌舞伎」では『野崎村』丁稚久松、『熊谷陣屋』ではAプロで堤軍次、Bプロではお父様である錦之助さんの役替りで源義経、『土蜘』で碓井貞光を演じられます。

隼人:今回は古典尽くしです。しかもかなり大きな役ばかりで。大役を大先輩たちと一緒につとめるのはプレッシャーもありますが、自分に役を振られた意味を考えながらつとめられたらと思います。

――久松は、お光とお染、ふたりの女性の人生を変えてしまう男性ですね。

隼人:うちの父も何度も演じていますが、今回は(中村)鴈治郎おじ様に教わっています。

――中村鴈治郎さんは、映画「国宝」で歌舞伎指導を行ったことでも話題です。お父様の錦之助さんに教わっているのではないんですね。

隼人:発声にしても、いろんなところに稽古に行ってみたり声楽に行ったり、自分で試行錯誤して今の状態があります。ただ「(父に)似てるね」とよく言われるんですよ。親子は結局似てくると父も思っているようで、まずは先輩方に習ってきなさいという方針です。教えていただくのは(片岡)仁左衛門おじ様が一番多いでしょうか。また、幸四郎兄さんをはじめ諸先輩方に教わっています。

――仁左衛門さんと言えば、Bプロでは錦之助さんが役替りで務められ、隼人さんが義経を演じられます。

隼人:コロナ禍の南座公演の際、父が二日間代役で直実を演じました。僕は急遽義経を演じることになりました。それを踏まえて今回は本役として演じる機会をいただいて、本役としては初役です。

――『熊谷陣屋』というと、本当に重厚な古典歌舞伎のお芝居で……。

隼人:『熊谷陣屋』では、あぐらで一時間ぐらい座っていて、セリフは一言だけという四天王の役を、今までに5~6回演じています。各々の役の心得や苦労を知っているので、僕らは良い作品とわかっていますが、重厚だと言われるのもわかります。約1時間半の義太夫狂言なので、お客様も大変でしょう。歌舞伎はそういう作品も多いからこそ、どうしたら、脚本を変えずに現代のお客様に楽しんでもらえる芝居になるかは常々考えています。

2025.06.27(金)
文=宇野なおみ
写真=山元茂樹