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10年前から投稿していたインスタ

――30代となられて、いわゆる円熟期に入ってこられたのではないでしょうか。

隼人:まだまだですね。だって、「50、60鼻たれ小僧」って言葉がある世界ですよ(笑)。やっと、舞台上での視野が広がって、いわゆる俯瞰で見えるようになってきた気はしていますが……なおかつ体が動くっていうのは今からかなと思います。

――視野が広がったとお話いただきましたが、きっかけとなった役はありますか?

隼人:いくつかありますが、浅草新春歌舞伎で演じた『寺子屋』でしょうか。僕の初舞台の演目でもあり、子役として参加した経験があっても、いろいろな発見が多かった公演です。この時の武部源蔵役で、ほぼ初めて仁左衛門おじ様に稽古をつけていただきました。

――インスタグラムでも投稿されていました。インスタはかなり長くやっていらっしゃいますよね?

隼人:もう10年になるでしょうか。僕が始めた時は、まだ歌舞伎俳優でアカウントを持っていた人はほぼいなかったと思います。当時は、やっぱりもがいていたんですよ。インスタグラマーやインフルエンサーが現れ始めて、そういう方々はすごく影響力があるじゃないですか。歌舞伎は毎月、専用の劇場で興行をしています。その分普通の舞台より宣伝がしづらい部分があり、自分でできることをやれたらいいんじゃないかと思って。最初は試行錯誤でした。今は宣伝の価値が認められて、だいぶ前向きに捉えてもらえるようになりましたね。

――皆さん、活用されている印象です。

隼人:ただ、礼儀という面では、ちゃんとした方がいいのではと思うことも増えてきました。例えば初日と千穐楽はスーツで来るという、暗黙の了解が今まではあったんです。自分はいまもとりあえず守っているんですが……。変えていいことと、変えてはいけない大事なことってあるでしょう? 自分が先輩方を見て学んだことは、本当にたくさんあります。きちんと受け継いで、この先、自分が発言力を持てるようになった時には後輩にきちんと伝えていきたいです。

――最後に、CREA WEB読者にメッセージをお願いします。

隼人:歌舞伎を観にに来てくださる方は、気になる演目や俳優がきっかけではないでしょうか。僕は少し下調べしてから観に来ていただいたほうが、より楽しめると考えています。歌舞伎はわかりやすい作品から、耳で聞くだけでは難しい作品までさまざまです。なんとなく見るだけではもったいない、取りこぼしてしまう部分もあると思います。例えば、『野崎村』だったら「嬉しかったはたった半時」。こうした有名なせりふがある演目も多いので、予習しておくと「来た!」と楽しんでいただけるのではないでしょうか。

――まさに大向うで言う「待ってました!」ですね。

隼人:あとはそうだなあ……僕を観に来てください! ……こんな感じで大丈夫ですか(笑)?

 軽妙な語り口で、ハードスケジュールの様子を見せることなくからりと笑う隼人さん。芝居や演技、歌舞伎のこれからに非常にまじめに、真摯に向き合われていました。そのまっすぐな姿勢が、広く応援される理由なのかもしれません。映像、歌舞伎ともども、今後の活躍がますます楽しみです!

(※「澤瀉屋」の「瀉」のつくりは、正しくは“わかんむり”です)

【初めから読む】中村隼人さんインタビュー #1

「七月大歌舞伎」
大阪松竹座
7/5(土)初日~7/24(木)千穐楽

https://www.kabuki-bito.jp/theaters/osaka/play/892

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2025.06.27(金)
文=宇野なおみ
写真=山元茂樹