主演のビルキンさんとのワークショップ

――ビルキンさんは、これまでには『I Told Sunset About You ~僕の愛を君の心で訳して~』というBLドラマにも出演しています。作品によって、演技の仕方も違ってくるので、今回はとにかく自然にということを心掛けたと聞きました。また、ワークショップを時間をかけて行われたそうですが、そのときの印象はありますか?

パット ワークショップはアクティングコーチのシェルさんという方がやっているのですが、彼女のワークショップでは、演技の教室で教えるようなことは一切やらないんです。肌に触れて、その体の感覚に慣れてもらうということをやっていました。また、シーンごとのリハーサルも一切しません。そのほかには、監督の私に慣れてもらうようにもしました。私は監督ですが、演技に指示を出す人ではなく、友人のように存在するように心がけました。

 なので、俳優に対して、演技が正しいとか正しくないという判断は一切しませんでしたね。またビルキンも撮影が終わった後、自分のモニターを一切見ませんでした。彼は撮影現場に来たら、すぐに友達と遊んでリラックスしていて、今日は頑張ろうと力むことはありませんでした。そういう感覚を身に着けたのがワークショップでした。

――自分の体に触れるというのは、どのような感じなんでしょうか?

パット コンテンポラリー・パフォーマンスのような感じでしょうか。脚本のない中で、座ったり立ったり、鏡に自分の姿を映したりと、内面を掘り下げることが多かったです。

 それに、俳優が演じるキャラクターの深い感情というのは、すでに脚本に書いてあります。だから撮影時の俳優の役割は、できるだけその場で感じることだと思います。そういう形式のワークショップを試みました。

――おばあちゃん(メンジュ)役のウサー・セームカムさんについても教えてください。この映画に出るまで、ほとんど演技経験がなかったと聞きました。

パット ウサーさんも、ワークショップに参加していただきました。ワークショップでのウサーさんは、大半は座って話をしていたという感じですね。ウサーさんは、心の広い人で、いつも会うと私やビルキンさんにハグしてくれるんです。そういうことを通じて、本当のおばあちゃんと孫のような関係性になっていきました。「今日は何をしたの?」という話をしたり、「病院にいったら、今日は順番待ちが長かったよ」などというなんでもない話をしていました。また、ウサーさんが脚本を読んだときに感動をしたというので、どんなところに感動したのかという話を聞いたりしました。お互いの経験をシェアするというよりも、彼女の話を聞かせてもらい、ウサーさん=「おばあちゃん」のことを理解するように努めました。

 ウサーさんは、本当にフレッシュな新人なんです。撮影中に、カメラを真正面で見つめてきたときはびっくりしましたが、そんなところもフレッシュでかわいらしいなと思いました。

――監督自身は日本映画もお好きで、特に是枝裕和監督がお好きと聞きました。どんなところがお好きなんでしょうか?

パット 本当に好きな作品がたくさんあります。『幻の光』とか『ワンダフルライフ』とか、かなり緻密に準備をなさっている印象で、ストーリーにしろ、脚本にしろ、広い人に届くような工夫がされているので、映画が建築物のような構造をしていると思いました。また、こういう風に演出すると観客にこう届く、ということをロジカルに構成されていて、映画の言語というのものが、よく練られている印象です。そして作品ごとに、その部分がどんどん発展していることが分かる。そんな彼の映画の作り方が、とても好きなんです。
 

『おばあちゃんと僕の約束』
6月13日(金)より新宿ピカデリーほか全国順次公開

【STORY】
大学を中退してゲーム実況者を目指す青年エム。従妹のムイが祖父を介護したことで豪邸を相続したと聞き、自分も楽をして暮らしたいと画策。エムには一人暮らしの祖母・メンジュがおり、ステージ4のガンに侵されていることが判明。不謹慎にもエムはメンジュに近づき、彼女から信頼され相続を得ようとする。しかし、メンジュの慎ましくも懸命に生きる姿に触れる中で彼の考えは変わっていく。

監督・脚本:パット・ブーンニティパット(TV版「バッド・ジーニアス」) 脚本:トッサポン・ティップティンナコーン
製作:ワンルディー・ポンシティサック ジラ・マリクン 音楽:ジャイテープ・ラーロンジャイ
撮影:ブンヤヌット・グライトーン 編集:タマラット・スメートスパチョーク
出演:プッティポン・アッサラッタナクン(ビルキン) ウサー・セームカム サンヤー・クナーコン
サリンラット・トーマス(『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』) ポンサトーン・ジョンウィラート トンタワン・タンティウェーチャクン
2024年/126分/タイ/原題:Lahn Mah/カラー/5.1ch/1.85:1
日本語字幕:小河恵理 後援:タイ国政府観光庁 配給:アンプラグド
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2025.06.13(金)
文=西森路代
写真=三宅史郎