タイでは若者を中心にヒット
――この映画は、初めてアカデミーの外国語映画のリスト入りしたということも話題となりました。タイでは若者を中心にヒットをして、TikTokを通じて拡散もされたとのことでした。映画を制作しているときには、ここまでの反響を予想していたのでしょうか?
パット ヒットしたことにはいろんな要因があると思います。この映画が上映された国でも、大家族から核家族に変化するような時期だったということも要因として大きいです。また、そういうことを懐かしいと感じたりしてくれた人も多かったと思いますし、家族の深い絆を描いている映画が、最近は少なかったということもあるでしょう。そんなことが重なり、世界的にも共通する感覚で見てくれたんじゃないかと思います。
私自身の映画というよりは、見た人それぞれの映画だととらえてもらいたいと思いながら作りました。だからこそ受け入れられたのではないでしょうか。

――GDHの複数の映画が同時に日本で公開されることもあり、注目されています。タイ映画自体の勢いを感じるのですが、その中にいる監督はどのように思っていますか?
パット 個人的には、タイ映画業界というのはとても小さいし、まだまだな部分もあると思うんです。そういう市場で映画を作る上でまず考えることは、興行収入を上げることなんですけど、タイの観客動員数を考えるととても難しいことです。
そして、興行収入を上げるために映画を作るということは、映画の芸術性を考えたり、いい映画を作るということが完璧にできなくなるという可能性もあります。ただ、自分は会社に所属しているのではなく、フリーランスの監督ですが、GDHのスタッフや映画製作者というのは、とにかくいい映画を作ることが一番なんです。そういうところが原動力となって、勢いが出てきているのではないでしょうか。

――キャストの方たちについても教えてください。エム役のプッティポン・アッサラッタナクン(ビルキン)さんがオーディションで選ばれた決め手はどんなところにあったのでしょうか。
パット 実は、4~5年前になるんですけど、ビルキンさんは、私が働いていたナダオという会社に所属していたんです。その頃、会社の社員旅行のようなものがあって、そこに俳優さんたちも来てたんですね。その中にビルキンさんもいました。彼はムードメーカーでみんなを楽しませてくれるところもありつつ、気を遣うこともできる方で、そのときから魅力的だなと思っていました。親戚の集まりに来たいたずらっ子で、でもみんなに愛されている甥っ子みたいだなという印象で、今回の役にぴったりだと思ったんです。
2025.06.13(金)
文=西森路代
写真=三宅史郎