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高齢者になってる意識が薄い「アウト老」

みうら 僕ね、もう67歳なんですが、高齢者になってる意識が薄いんですよ。まだ「おじさん」だった時代も、自分がおじさんだとピンときてなかったもんで、「そこのおじさん、財布落ちましたよ」って言われても振り向くことができなかったと思うんです。
酒井 お財布拾えなかったんですね。
みうら で、還暦迎えたときに、高齢者の自覚を持って生きなきゃと、赤いちゃんちゃんこを張り切って着ていこうと決意したんです。赤い帽子もちょっと斜めにしてチェ・ゲバラみたいな被り方して、それで1年間やっていこうと思ってたら、あれって、還暦の誕生日1日だけのウェアらしいじゃないですか。
酒井 1年間毎日着るものではなかった(笑)。
みうら 毎日着てれば多分還暦過ぎた高齢者だぞって自覚が持てたんだけど、1日じゃ持てないんですよ。これじゃいかんなと思っていたんですが、コロナ禍になって人に会わなくなったもんで、ヒゲを剃らずにいたら、ヒゲに白髪が混ざってることに気がついたんです。髪の毛には白髪が生えていないのに。
酒井 髪の毛は真っ黒ですけど、染めていなんですか?
みうら 染めてないんですよ。「若づくり」じゃなくて「老けづくり」がしたいのに参ったな……と思っていたら、鼻毛、ヒゲ、下毛っていう感じで白髪が出てきて。
酒井 体の中央構造線だけに白髪が。
みうら そう、白髪の中央フリーウェイが貫通した(笑)。こうやって白髪の混じったヒゲを生やして、老けづくりを始めて、自分に「ジジイだぞ、ジジイだぞ」って言い聞かしてるんですよね。
若づくりをしたって、もう諸行無常はしょうがない

酒井 それまではヒゲはなかったんでしたっけ?
みうら 何回か生やしたことがあったんですよ。インドに仏像を見に行ったときも、インドに行ってヒゲボーボーになって帰ってきたビートルズにならなきゃと、ヒゲを剃らずにいたんですけど、そんなに伸びなかったんす。でも、歳取ったら体質が変わってきて伸びるようになってきて。これ、進化なんですよ。どう考えても老化より進化なんですよね。前よりヒゲが生えるようになってるわけですから。
酒井 髪は真っ黒なのにヒゲだけ白いって不思議……。ヒゲは男性ホルモンで、髪は女性ホルモンですよね。

みうら たしかに。面白いですね。でも、白いヒゲを生やしてると、年齢をあまり聞かれないと思うんです。山のてっぺんに住んでる仙人に「おいくつですか?」ってわざわざ聞かないじゃないですか。最近は僕も歳を聞かれなくなったし、聞かれて正直な年齢を伝えたら「えっ、意外と若いじゃないですか」って言われるんじゃないですかね。
酒井 多分ヒゲがないと、めちゃくちゃ若く見えますもんね。
みうら きっと若く見えて、自分もその若さに騙されていたと思うんです。でも、さっきの工場の話じゃないけれど、もう内部がかなりボロなのは自覚してますから。
酒井 そういう意味での老けづくりだったのか。
みうら 若づくりをしたって、もう諸行無常はしょうがないわけですから。しょうがないことに抗ってもしょうがないと思って。
みうらじゅん
1958年京都市生まれ。武蔵野美術大学在学中に漫画家デビュー。以来、 イラストレーター、エッセイスト、ミュージシャンなどとして幅広く活躍。1997年、 造語 「マイブーム」 が新語 ・流行語大賞受賞語に。 「ゆるキャラ」の命名者でもある。2005年、日本映画批評家大賞功労賞受賞。2018年、仏教伝道文化賞沼田奨励賞受賞。著書に『アイデン&ティティ』 、 『マイ仏教』 、 『見仏記』シリーズ(いとうせいこうとの共著) 、 『 「ない仕事」の作り方』 (2021年本屋大賞発掘部門「超発掘本!」に選出)など。音楽、映像作品も多数ある。
酒井順子(さかい・じゅんこ)
1966年、東京都生まれ。高校在学中から雑誌でコラムを連載する。大学卒業後、広告会社勤務を経て執筆に専念。2003年に発表した『負け犬の遠吠え』がベストセラーとなり、婦人公論文芸賞、講談社エッセイ賞をダブル受賞。『ユーミンの罪』『子の無い人生』『百年の女』『駄目な世代』『男尊女子』『家族終了』『ガラスの50代』『女人京都』『日本エッセイ小史』『消費される階級』などの著書の他、『枕草子』(上・下)の現代語訳も手掛けている。

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2025.05.23(金)
文=ライフスタイル出版部
撮影=佐藤 亘