アフタヌーンティーを楽しむ“ヌン活(アフタヌーンティー活動)”が人気を集めています。
そんな“紅茶時間”を、もっと気軽に、もっとおいしく――。ライフスタイルの変化にいち早く応えたのが、セブン‐イレブンが一部店舗で展開する淹れたての紅茶「セブンカフェ ティー」。コンビニで買える紅茶とは思えない本格的な香りと味わいに、SNSでも驚きの声が続出。そこには、コーヒーで磨いてきた技術と、紅茶好きの心をつかむためのこだわりが詰まっていました。
紅茶マイスターの知見まで取り入れたというこのプロジェクト。今回は株式会社セブン&アイ・ホールディングスのセブンカフェ ティー開発担当者に、開発秘話や商品のおすすめの楽しみ方を聞きました。
◆紅茶を美味しくする“ゴールデンルール”

2023年の秋から一部の店舗でテスト販売が始まったセブンカフェ ティー。この一杯を提供できるようになるまでの背景には、紅茶の美味しさを本気で追求した開発陣のこだわりと挑戦がありました。
「最大のポイントは、紅茶の抽出方法です。紅茶を美味しく淹れるには“ゴールデンルール”と呼ばれる基本があるのですが、茶葉にこだわる人は多くても、淹れ方まで意識する人は少ない。
だからこそ、セブンカフェ ティーでは淹れ方まで妥協せず、茶葉本来の美味しさを引き出す方法を探りました。ただし、茶葉を蒸らすには時間がかかります。美味しさを優先すれば提供に時間がかかり、手軽さを求めれば風味が損なわれる。そのバランスをどう取るかは、最後まで大きな課題でした」(開発担当者、以下同)
開発には、近年注目を集めている“ヌン活”のトレンドがヒントになったそう。
「紅茶を飲むだけでなく、スイーツや軽食とのペアリング、空間そのものを楽しむという“ヌン活”の考え方が広がるなかで、紅茶と食との相性、つまり“フードペアリング”に対する意識が高まりました。セブン‐イレブンはこれまで多彩なフードを提供してきたからこそ、紅茶そのもののクオリティを高めることが、全体の食体験の価値を押し上げるという考えに至ったのです。
ですが、紅茶の文化がまだ十分に根付いていない日本で、“紅茶の新しい楽しみ方”を提案すること自体がチャレンジでもありました。コーヒーは“サードウェーブ”の流れで、豆の産地や淹れ方などへの関心が高まりましたが、紅茶にはそうした動きがこれまでありませんでした。『どこで採れた茶葉なのか』『どう淹れたら美味しいのか』といった基本情報が、まだ一般には浸透していなかったのです」
実は開発チームのスタッフの多くも、紅茶について深く知らない状態からのスタート。だからこそ、まずは茶葉の産地別に飲み比べる勉強会を開き、製茶工場に足を運ぶことや“ヌン活”を実際に体験することを通して、“どんな紅茶が求められているのか”を丁寧に探っていきました。
そしてたどり着いたのが、“まるで手で淹れたような一杯を、マシンで再現する”こと。こだわりの茶葉を、熱湯に近いお湯で蒸らし、ジャンピング(茶葉が湯の中で踊る現象)を起こして香りを引き出し、最適な時間で抽出する。この一連のプロセスを忠実に再現するために、マシンの設計にもさまざまな工夫が。
「紅茶マイスターからは『お湯の温度が味を大きく左右する』とのアドバイスを受け、100℃近いお湯を使用することになったのですが、その結果マシン内部に湯気が充満してしまい、蒸気を逃がすための専用ファンを新たに搭載することに。ただ、その香りが思いがけず、マシン周辺に広がって行き、『淹れているときから紅茶のいい香りがする』とお客様からは嬉しい感想をいただいています」

これほど手間をかけながらも、1杯120円~という価格で提供できているのは、原料調達から製造、流通までを最適化したサプライマネジメントの賜物。実は、どのメニューも同じ抽出方法ではなく、それぞれの茶葉に合わせて0.1秒単位で淹れ方を調整しているのだとか。
2025.05.25(日)
文=逢ヶ瀬十吾(A4studio)