話し合いながら構築して……
スカートは『CALL』ぐらいの頃からなんとなく多重録音によるデモを作って、バンドメンバーに聴いてもらって、それを肉付けしてもらう、という形が増えていた。その方が早い場合もある。でも今回、『スペシャル』が風通しのいいアルバムになったのは多重録音のデモを作らなかったことが大きいのかもしれない。結局、既発曲を除いて多重録音によるデモは1曲も作らなかった。骨組みだけ仕上げてあとはデータのやり取りでデモを作っていったり、リハーサルスタジオやレコーディングスタジオで録りながら決めていく、という至極バンドっぽいやり方になった。自分ひとりでデモを作っていたらおそらく「ぼくは変わってしまった」の最初の間奏はあんなに眩しくならなかったはずだ。他にも「緑と名付けて」はリファレンスとなるいろんな曲をレコーディングスタジオのスピーカーで聴いて、「こういうリズムは?」「ああいうリズムなら?」と話し合いながらできていったし、アウトロを「3小節単位にするのはどう?」となおみち(岩崎なおみ)さん(ベース)がアイデアをくれてキュートさが増した。
『スペシャル』はバンドに共有された弾き語りのデモとはだいぶ感じが変わった。最初はもっとなよなよしたナードなリズムだったのだけど、佐久間さんと2人で入ったスタジオで「もっとNRBQみたいにしたい!」だとか「ちょっとホットでさあ」だとか言いながら悶々とさまざまなリズムを試し、その結果、キレのある楽曲に仕上げることができた。スカートは今まで、「理想の形を追うのだけど、私の頭の中にある理想なんていうものはしょせんはまやかしだ」と思いながら制作を続けてきた。理想を思い描きながら、理想の顔をどうやったら見ないで済むのか、理想の顔を見てしまったらそこに囚われてしまうだろう、だから思い描きながらただ追いかけてきた。そうすることによってポップとしての飛距離が生まれる(のかもしれない)、と思ってやってきた。自分が作ってきたレコードを思い返すと、それは決して間違ってはいなかったのかもしれないけれど、こうして出来上がった『スペシャル』を通して私は、しんどいときでも仲間に頼れば私の思惑なんて飛び越えたいいものができる、という(ものすごく当たり前の)ことを知りました。
澤部 渡(さわべ・わたる)
2006年にスカート名義での音楽活動を始め、10年に自主制作による1stアルバム『エス・オー・エス』をリリースして活動を本格化。16年にカクバリズムからアルバム『CALL』をリリースし話題に。17年にはメジャー1stアルバム『20/20』をポニーキャニオンから発表した。スカート名義での活動のほか、川本真琴、スピッツ、yes, mama ok?、ムーンライダーズのライブやレコーディングにも参加。また、藤井隆、Kaede(Negicco)、三浦透子、adieu(上白石萌歌)らへの楽曲提供や劇伴制作にも携わっている。25年にCDデビュー15周年を迎え、5月14日にはアルバム『スペシャル』をリリース。合わせてリリースツアー「スカート ライヴツアー2025“スペシャル”」の開催も決定!
https://skirtskirtskirt.com/

Column
スカート澤部渡のカルチャーエッセイ アンダーカレントを訪ねて
シンガーソングライターであり、数々の楽曲提供やアニメ、映画などの劇伴にも携わっているポップバンド、スカートを主宰している澤部渡さん。ディープな音楽ファンであり、漫画、お笑いなど、さまざまなカルチャーを大きな愛で深掘りしている澤部さんのカルチャーエッセイが今回からスタートします。連載第1回は新譜『SONGS』にまつわる、現在と過去を行き来して「僕のセンチメンタル」を探すお話です。
2025.05.14(水)
文=澤部 渡
イラスト=トマトスープ