スピーチの内容を、みんなでつくり上げていった
本人はアドリブが苦手だと言うが、映画のクライマックスである妹・フミ子の結婚披露宴で俊樹が語るスピーチの内容を、自分が俊樹として感じたことをふまえて考えたいと申し出ている。
「最初に脚本を読んだとき、少し、スピーチに違和感があったんです。そのことをお伝えすると、『現場に入ってから俊樹が何を見て感じたかをふまえて、監督や脚本家と一緒にスピーチをつくっていきましょう』と言ってくださって。元のスピーチもすばらしかったのですが、ひとつは笑いの要素が少なかったんですね。関西人たる者、スピーチに立ったからには笑いを取る義務に駆られるだろうと(笑)。俊樹のようなお調子者は、とくに。もうひとつ、前田監督はケン・ローチ作品が好きだとおっしゃっていたので、それならスピーチも美辞麗句ではなく、俊樹が自分の経験から発する生々しい言葉を求めているのではないかと思いました。ト書きにはない、監督の頭の中にあった俊樹とフミ子の幼少期のエピソードを参考にしたり、父親ならこう言うかなと想像したりしながら、みんなでつくり上げていった感じです」

そうして完成したスピーチの撮影に「自分の緊張と俊樹の緊張がオーバーラップした状態」で臨んだところ、鈴木の演技はなんと一発OK。エキストラも含め現場にいた全員が涙をこらえられなかったという。
「自分たちで考えた台詞ですから、感情を抑えて理性的にしゃべるつもりでしたが、いざスピーチをはじめたらダメでしたね。披露宴というのは不思議なもので、嗚咽が本当に止まらなくなるんですよ。最後のほうはもうぐちゃぐちゃになってました(笑)」
撮影 深野未季/文藝春秋
丸山晃=スタイリング
Kaco(ADDICT_CASE)=ヘアメイク
衣装協力:ジャケット、シャツ、パンツ=ユーゲン(イデアス)、
シューズ=ジョンロブ(ジョン ロブ ジャパン)
すずき・りょうへい 1983年、兵庫県生まれ。2006年に俳優としてデビューし、『椿三十郎』(07年)にて映画初出演。NHK大河ドラマ「西郷どん」(18年)で主人公の西郷隆盛を演じる。主なテレビドラマ出演作は「TOKYO MER~走る緊急救命室~」(21年)、「下剋上球児」(23年)など。主な映画出演作は『HK/変態仮面』(13年)、『孤狼の血 LEVEL2』(21年)、『シティーハンター』(24年)など。『エゴイスト』(23年)で第78回毎日映画コンクール男優主演賞ほか多数受賞。
INTRODUCTION
『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』『そして、バトンは渡された』など、人と人との心の繋がりを、笑いと涙を交えながら繊細に映し出してきた、前田哲監督。新たに作り上げたのは、不思議な“記憶”を巡る家族の感動物語だ。原作は、第133回直木賞を受賞した、朱川湊人の短編集『花まんま』の同名表題作。かねてより本作を映画化したいと熱望していた監督が、原作との出会いから15年余りの時を経て公開までこぎつけた。「花まんま」とは、小さな花を詰めたお弁当で、本作のキーアイテムとなっている。
STORY
大阪の下町で暮らす、俊樹(鈴木亮平)とフミ子(有村架純)の兄妹は、二人きりの家族。俊樹は、死んだ父との約束を果たそうと、兄として妹のフミ子を守り続けてきた。そして、ついにフミ子の結婚が決まり、これで肩の荷が下りると俊樹は安堵していた。しかし、そんな矢先、遠い昔に封印したはずのフミ子の秘密が、今になって蘇ってしまう。そのフミ子の秘密とは、幼少から別の女性の記憶があること。フミ子の自我とは別に、亡くなったある女性の思い出が存在していて……。
STAFF & CAST
監督:前田哲/原作:朱川湊人『花まんま』(文春文庫)/出演:鈴木亮平、有村架純、鈴鹿央士、ファーストサマーウイカ、オール阪神、オール巨人、六角精児、キムラ緑子、酒向芳/2025年/118分/配給:東映/©2025「花まんま」製作委員会


花まんま(文春文庫 し 43-2)
定価 836円(税込)
文藝春秋
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2025.04.22(火)
文=岸良ゆか