この記事の連載

「僕と君は同じ中国人だ」と……

──ちょうど中国のお話が出たので伺いたいのですが、『隙間』では、中国出身の留学生と主人公が、政治的な解釈をめぐって衝突する経験を経たのちに、お互いのつらさを理解し合い、心を通わせていきます。高妍さんも同じような経験をされたことがあるのでしょうか?

 私も、主人公と同じように「僕と君は同じ中国人だ」と言われたときは「それは正しくないです」とはっきりと伝えていました。センシティブな話になると喧嘩してしまうということは何度かありました。もちろんみんなと仲良くしたい気持ちはあるんですが、私も今よりとがっていたので(笑)。

 でもこの物語では、中国出身の人と分かり合うことは難しいということを伝えたいわけではありません。インターネットの使用が制限されて、与えられた情報が正しいと信じて育った人が、初めて自国を離れたら、誰もが戸惑います。その戸惑いを感じて自国の歴史に対峙する経験をしてみてほしいということ、そして100%分かり合えない人なんて絶対にいないということを伝えたいんです。

 読者の方には、私たちが学んでいた教科書の内容はすべて正しかったのか、という疑問にも向き合ってほしいと考えています。

» 後篇へ続く

高妍(ガオ イェン)

1996年台北市生まれ。台湾芸術大学視覚伝達デザイン学系卒業、沖縄県立芸術大学絵画専攻に短期留学。イラストレーター・漫画家として台湾と日本で作品を発表している。台湾で暮らす少女が日本の文化を通じて新しい世界と出合う『緑の歌-収集群風-』(KADOKAWA)でデビュー。

隙間 1 (ビームコミックス)

第1巻 902円 第2巻 946円
KADOKAWA
4月11日に第3巻が発売、880円。
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次の話を読む「どうして彼らの名前は教科書に出てこないのだろう」台湾出身の漫画家・高妍が‟煮え切らない恋“を通じて描きたかったもの

2025.04.11(金)
文=高田真莉絵
写真=平松市聖