「必要なのはあなたのその気高い魂だけ」
彼女は写真を引き上げなかった。無事に雑誌は刊行され、店頭に並んだ。彼女はそのことについて、一切言及せず、私をブロックした。その後の彼女の投稿を読むに、私は地獄に落ちるらしい。その日のうちに彼女のインスタグラムから私の写真が全て消えているのを見て、私は部屋中に貼ってあった彼女の写真をひとつずつ剥がしてゴミ袋に入れていった。本当は変わらずとっておきたかったけど、なんとなくそれは許されないことのような気がした。本棚には最近の彼女の展示で購入した写真集があった。捨てる前に開いてみると、私の写真の横には長い文章があり、最後にこう添えてあった。
「必要なのはあなたのその気高い魂だけ」
ひとりの部屋で、静かに声を出してその文章を読んだ。涙をボロボロながしながら、自分はこんな時も泣けるシーンを書くためにこんな小芝居をしているのではないかと腹が立った。気高くなんかない。私は卑怯だった。あなたの才能は魔法で、本物の気高い魔女はあなただけ。私はきっと、これからもそうじゃない。
最近になって、出版社のパーティーでそのときの編集者が声をかけてきた。お互いに丁寧なお礼を言ったあと、編集者は「あの写真のおかげで雑誌の寿命が10年延びました」と言った。お世辞だとわかっていながら、私は自分の望みが叶ったことに満足した。この言葉を当の彼女に伝える術を、私はもう持ってはいない。
伊藤亜和(いとう・あわ)
文筆家・モデル。1996年、神奈川県生まれ。noteに掲載した「パパと私」がXでジェーン・スーさんや糸井重里さんらに拡散され、瞬く間に注目を集める存在に。デビュー作『存在の耐えられない愛おしさ』(KADOKAWA)は、多くの著名人からも高く評価された。最新刊は『アワヨンベは大丈夫』(晶文社)。

Column
伊藤亜和「魔女になりたい」
今最も注目されるフレッシュな文筆家・伊藤亜和さんのエッセイ連載がCREA WEBでスタート。幼い頃から魔女という存在に憧れていた伊藤さんが紡ぐ、都会で才能をふるって生きる“現代の魔女”たちのドラマティックな物語にどうぞご期待ください。
2025.04.01(火)
文=伊藤亜和
イラスト=丹野杏香