旅館道その3
「温泉は一つとは限らない。時間はゆっくりめに取って」

左:2つの温泉へは長い階段を通って向かう。少し秘密めいた感じがよい。途中にお休み処もある。
右:煙が立ち上り、近づくとゴボゴボという音までする、大地のパワーを感じる元湯「走り湯」。

「界 熱海」の元湯でもある、伊豆山温泉の源泉「走り湯」は、奈良時代に開湯した全国唯一の横穴式の温泉で、熱海市指定文化財の史跡にもなっている。狭い洞穴の入り口から煙が昇り立ち、ゴボゴボという音が聞こえる。中は薄暗く、身を屈めて入ってみると、奥には柵に囲まれた源泉がまるで大地が煮え立つように沸き上がっていた。自然の力が伝わってくるような不思議な感じに、古くから霊湯として自然信仰の対象となっていたのもうなずける。時間があれば、この源泉を訪れるのも面白い。「界 熱海」では、70度近くあるこの元湯を四季に合わせて適温にして使っているという。弱アルカリ性の柔らかい湯だ。

空中の湯上がり処「青海テラス」からは海が一望できる。潮騒を聞きながら読書している人も。

 このかけ流しの温泉にゆったりとつかるのは至福の時間。「界 熱海」には、檜の丸太を組んで源泉の名をつけた「走り湯」と、透明なガラスで囲まれて森の中に浮いているような感じのモダンな「古々比の瀧(こごいのゆ)」の2つがある。男女は時間によって入れ替わり制になっていて、ご婦人用になるのは夜は「走り湯」、朝は「古々比の瀧」。この「古々比の瀧」から海が一望できるので、 ちょうど日の出を湯に浸かリながら見ることができるのだという。

元湯からその名を採った「走り湯」は、木の香りがする趣ある湯殿。

 伊豆山の斜面に立つ建物なので、湯殿まで上がり下がりも多いが、その変化もまた面白く、廊下にはしめ縄を付けた木がにょきっと生えていたりする。途中に「青海テラス」という湯上がり処もある。そういえば温泉から上がって、火照ったところでちょっとした飲み物などいただくのも温泉につかるのと同じぐらい楽しい。ゆっくりと過ごせる時間をとっておこう。

 次回は、「界 熱海」のさらなる楽しみ方をご紹介します(5/25公開)。

「古々比の瀧」は、遥かに海を望む、緑に囲まれた露天の湯。日の出を眺めながらの入浴が最高。

星野リゾート 界 熱海
所在地 静岡県熱海市伊豆山750-6
アクセス JR熱海駅よりタクシーで約5分
電話番号 050-3786-0099
URL http://kai-atami.jp/

小野アムスデン道子 (おの アムスデン みちこ)
ロンリープラネット日本語版の立ち上げより編集に携わったことから、ローカルグルメや非日常の体験などこだわりのある旅の楽しみ方を発信するトラベル・ ジャーナリストへ。エアライン機内誌、新聞、ウェブサイトなどへの寄稿や旅番組のコメンテーター、講演などを通して、次なる旅先の提案をしている。
Twitter https://twitter.com/ono_travel

Column

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2014.05.24(土)
文=小野アムスデン道子
撮影=深野未季