旅館道その2
「おもてなしのプロ、芸妓さんと日本の粋な遊びを一緒に楽しもう」

舞の曲がかかると一気にお座敷の世界へ。

 日本のおもてなしのプロである芸妓(関東では「げいぎ」と読む)。熱海にも明治時代から芸妓が要人をもてなす芸妓文化があって、今も置屋の数は100以上、芸妓も200名以上いるというが、実際にお座敷に芸妓さんが来てどんな遊びをするのかは、とても興味があるところ。

「界 熱海」では「界ASOBI」というご当地遊びの一つとして、芸妓が毎日夜の9時から1時間、長唄や舞などを披露する「熱海楽」があり、芸妓遊びもできる。

 時間になって廊下から手籠を抱えて現れた芸妓さんは、はっとするような美しい立ち姿。寿大吉という置屋さんから来た「静」さんは、芸妓になって6年だそう。日本髪の白い顔に赤い紅。美しい芸妓さんが登場して、「熱海名所」という舞の曲がかかると、椅子席のサロンも別世界のような感じになった。

最初は、的に当たっただけで大喜び。そのうち欲が出て高得点を狙うもなかなか難しい。

 舞の後の今日のお遊びは、桐箱の上に置かれた的に扇を投げて、その的と扇の位置で点数を競う「投扇興」というもの。まずは静さんに紙飛行機のようにひらりと扇を投げるコツをきいて、お客が向かい合って投げ合い、5投で競う。

これが投扇興の点数表。扇と的と箱の位置や、扇のかかり方などを見てこれで点をつける。

 落ちた扇・的・箱の位置が表す難度によって点数は変わる。扇が箱に当たっただけの「こつん」(マイナス2点)と的が揺れただけの「ゆらり」(プラス2点)、扇が飛んで落ちただけの「手習い」(0点)以外はすべて源氏物語や百人一首から型に名前が付いていて、なかなか雅やか。点数の見極めが難しく、「これは扇が上になったので夕霧、5点」と静さんが点数を付けてくれる。最初は遠慮気味だったのが、「お姉さんお上手」などと静さんに言われているうちに、いつしか本気モードで的に向けて投げ合っていた。日本ならではの芸妓さんとの粋な遊びは、ぜひ経験してみたい楽しみだ。

投扇興は、赤い毛氈、桐箱、的、扇があればどこでもできる、古くからの優雅な遊びだ。

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2014.05.24(土)
文=小野アムスデン道子
撮影=深野未季