人生の最終ゴールは俳優ではないと思っていた

思えば、昨今の韓国ドラマ史を語る上で、彼女ほど重要な役者もいないのではないか。5歳でこの世界に飛び込み、ぺ・ヨンジュンが主演を務めた『太王四神記』はじめ、『善徳女王』『千秋太后』など歴史に残る人気作に多数出演。子役から大人へと成長する間も途切れることなく作品に出演し続け、次第にどこまでも真摯に、そして執拗に役柄と向き合うことで知られるようになる。『ブラームスは好きですか?』では、音大生の演技のために半年以上バイオリンのレッスンを受け、『無人島のディーバ』では国民的歌姫を演じるため、1日3時間のボーカルレッスンを計43回受けた……というように。そんな多彩な作品リストで、努力家な才能を発揮し続けてきた彼女だが、驚くことに長らく、俳優は自分の人生の“最終ゴール”ではないと思っていたという。
「俳優の他にもやってみたいことが、たくさんあったんです」
とほがらかに笑うパク・ウンビン。その考えが変わったのは、大学生のころ。名門・西江大学に進学し、心理学と出会ったことが、彼女の人生を大きく変えた。
「大学時代は私にとって『私とは何者か』を集中的に探究する時間でした。心理学は人間を理解する学問と言いますが、私を理解するのに役立ち、一方で他者を理解するのは相変わらず難しいなと思います(笑)。ともかく、自分とは何者かを問う長いトンネルを抜けた時、私はお芝居という仕事が好きだったんだなと気がついた。やりたいことがたくさんあるなら、それを一度の人生で全部実現できる役者という職業は天職だったんだなと」
好奇心旺盛で、研究者気質。そんな彼女の人柄は作品選びにもよく表れている。最新作の『ハイパーナイフ 闇の天才外科医』で演じるサイコパスな天才外科医・セオクは、ピュアで芯のある女性を多く演じてきた彼女にとって、まったくの新境地と言えるキャラクターだ。
「オファーをいただいたのはちょうど『無人島のディーバ』の撮影中でした。幼いころから、同じことを繰り返すのが苦手で、とにかく新しいことをしたい性格なんです。『無人島のディーバ』で演じたのは前向きで明るいエネルギーの持ち主だったので、それとは真逆のセオクに運命的に惹かれるのを感じました」
2025.06.07(土)
Photographs=Kim Sinae
Styling=Kim Seha
Hair=Kang Dohee(PRANCE)
Make-up=Kim Yun-young(PRANCE)
CREA 2025年春号
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