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酸素室を購入し、自宅でも治療ができるように整えた

――虐待の恐れ。たしかに先生も慎重になるでしょう。

 だから、「この子は引き取った猫ちゃんで、里親になったのが初めてなのでわからないんです」と説明して一から教えてもらいました。

――その後は体調は回復していきましたか?

 シリウスがうずくまって動かなくなるたびに、病院の酸素室に入れてあげないといけなくて。その度に医療費もかかりますし移動の時間も大変なので、思い切って酸素室を買って正常な呼吸が常にできる環境を整えました。中華店のバイトだけで厳しい家計ではありましたが、シリウスのため。

 1年くらいしたら体重が増え始めて、ぴょんぴょんと台所にも飛び上がれるようになったんですよ。体調がよくなってからは「生まれてはじめてごはんを食べたのか?」っていうくらいガツガツとごはんを食べるようになって。ちゅ~るもがっついてましたね。

――嬉しい変化ですね。

 そうなんです。一番大きかった時は3.4キロまでなって、病院で「太り過ぎ」って言われました(笑)。けど、当初は1.5キロしかなかったところから大人になったからか、脚はずっとめちゃくちゃ細かったですね。

――初めて猫と暮らしてみて、どんなことを感じましたか?

 わんちゃんは抱っこした時、体の硬さを感じるじゃないですか。けど、猫ちゃんはどこまでもどぅる~んって伸びるんですよね(笑)。その尋常じゃない柔らかさに、まず犬と全然違うんだなと思いましたね。

 あと、猫は塩対応なイメージがありますけど、シリウスは呼ぶと来たんです。人見知りもせず、誰にでもぐるぐると喉を鳴らして顔をこすりつけてたので、思っていた感じと違うんだな。ちゃんと甘えるんだなと思いました。一緒に暮らしているうちに、こうしてほしいっていう気持ちもわかってきて、僕は猫と相性いいんじゃないかなと感じたりもしましたね。

 朝もね、シリウスなりのルーティンがあるんですよ。全部の部屋をパトロールするんです。縄張り意識からなのかな。数時間ごとに1回、すべての部屋を歩いて回ったあと、ソファの定位置に座ってました。

――猫を飼っている芸人さんにお話を聞くと、飼い始めてから仕事が増えたり、賞レースで結果がでたりと、猫は幸福を呼んでくれる存在だと語る方が多いですが、いかがですか?

 それ、めちゃくちゃ感じます。僕ら(みやぞんと組んでいたコンビ・ANZEN漫才)が初めて賞レースで優勝したのは、シリウスが来てから。そこからトントン拍子にいろんな仕事が入ってきました。

 だからシリウスは僕の人生の引っ越しすべてを経験してるんですよ。最初は中華料理店の2階から近くのアパートへ。そこはペットと住むためのマンションで、壁の下半分にカバー材が付いてて猫が自由に爪研ぎできるようになっていたんです。シリウスは爪を研がないからせっかくの設備はまったく意味がなかったですが(笑)。

 そのあとテレビに出るようになって、調子こいて港区のタワマンに引っ越しました。シリウスも港区の猫になって、そのあと品川に引っ越して品川の猫になりました。民芸品みたいな木の蔓を編んだドーム型のベッドが、シリウスのお気に入りの場所でした。

――10歳から一緒に暮らし始めたということは、老いを感じる瞬間も割と早く訪れたのではないですか。

2025.02.22(土)
文=高本亜紀
撮影=鈴木七絵