〈なぜ「東京暮らし」「裕福な家庭」の子しかバレエを続けないのか? 日本人が知らない「プロバレリーナ」の“驚きのお金事情”「政府の助成金が下りても赤字」〉から続く
「日本では、“習い事”としてのバレエの需要は高いんです。ただ、バレエを習ったことがある方でも劇場に足を運んでくださるかと言うと…」
なぜバレエ鑑賞のハードルは高いのか? 団員たちの金銭事情などに踏み込んだYouTubeの力で、初めてバレエを鑑賞する観客を増やしてきた「谷桃子バレエ団」の芸術監督・高部尚子さんに、バレエをもっと「楽しく・わかりやすく」する方法を直撃した。(全2回の2回目/最初から読む)
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「バレエ鑑賞」のハードルが高いワケ
――「子どもの頃にバレエを習っていた」という人は大勢いますが、それに比べて、バレエを鑑賞する人の数はぐっと少ない印象です。
高部尚子(以下、高部) 日本では、“習い事”としてのバレエの需要は高いんです。ただ、バレエを習ったことがある方でも劇場に足を運んでくださるかと言うと……。「セリフや歌がないからバレエはわかりづらい」というご意見をたくさん耳にします。
――2024年1月から谷桃子バレエ団ではイヤホンガイドの貸し出しを始めました。高部さんが主導しての試みだそうですね。
高部 私がなぜバレエを始めたかというと、踊りと音楽からひしひしと伝わってくるものを感じて、「セリフがないのに、なんだこれは!」と衝撃を受けたからです。言葉で説明しないことは、バレエ鑑賞のハードルの高さに繋がっている一方で、バレエの大きな魅力にも繋がっています。だからこそ「イヤホンガイドによる解説というのは、どうなんだろう?」という迷いがあったんですが……。
私は歌舞伎も好きで、よく行くんですが、イヤホンガイドで「なるほど。そういうことか」と理解する部分がけっこうあります。たとえば、『連獅子』という演目で、崖から落とされた子どもがじっと下を向く場面があるんです。「なぜ下を見るんだろう?」と不思議に感じていたのですが、あれは崖から見下ろす親の顔が水面に映るのを見ているそうですね。イヤホンガイドの解説でわかりました。
――歌舞伎での経験が、バレエに生きたんですね。
高部 私たち内側の人間は、「バレエでこういう手の動きは、こういう意味だ」といった知識を持っていますが、バレエを初めて観にいらっしゃった方にそれを自然に理解しろというのは酷ですよね。「言わなくてもわかってほしい」ではなく、わかってもらうための方法を提示していかないとダメなんだとハッとしました。
イヤホンガイドを導入した後、年配の男性から「バレエ好きな妻の付き添いで何度か来ているけど、内容がわからなくて毎回寝てしまっていた。でもイヤホンガイドのおかげで今回は全部わかったので、これからは自分もバレエを楽しめます」というご感想が届いて、印象深かったですね。
――イヤホンガイドのほかに挑戦した施策などはありますか?
高部 公演のオンライン配信や動画上映を始めました。いきなり舞台に行くのはハードルが高いという方も、これならもう少し気軽に楽しんでいただけるんじゃないでしょうか。
――高部さんご自身の経歴についても教えてください。
2025.02.18(火)
文=原田イチボ@HEW