世界随一のバレエ団、パリ・オペラ座のエトワールとして活躍してきたドロテ・ジルベールさんが現在来日し、東京文化会館で行われている『ル・グラン・ガラ2023~マチュー・ガニオとドロテ・ジルベールからの贈り物~』に出演している。

 成熟したダンサーだからこそ体現できるその魅力に迫るべく、ドロテさんにインタビューさせていただいた。


「やめたいと思ったことは1度もない」

——ドロテ・ジルベールさんはエトワールに任命されてから16年になります。任命直後に目指していたことと、“今”のご自身とは重なりますか?

 エトワールになることは幼い頃から目指してきたことなので、フランスではまつ毛がついていたら取るときに願い事をするんですが、その度に“エトワールになりたい”と願っていました。

 任命される前の私には“エトワール”という存在が完璧だという印象がありましたが、自分がなってみると、今なお自分を完璧だとは思いません。まだまだ改善点もありますし、もっと学んで成長しなければならないと思っています。

 自分が思い描いていた“エトワール像”のイメージと自分がエトワールになって実感していることは、やはり違うものだなと思います。

——どんなときに「踊り続けてきてよかった」と実感できますか?

 私はこれまでにやめたいと思ったことは1度もありません。踊り続けてきて辿り着いた境地は、自分の長所も短所も受け容れることができるようになったこと。若い頃は自分にないものを求めるんです。

 例えばシルヴィ・ギエムのように柔軟性の高い体を得たいと思って、その目標に向かって戦うんですが、年齢や経験を重ねるとそれは望めないことなのだと気づきます。本当の自分を受け容れることで少し穏やかになれましたし、頭の中も落ち着きました。

——これまでのダンサー人生でご自身の成長に繋がったと思える作品について教えてください。

 入団直後に『ジゼル』を初めて踊ったときに、すごく成長したと思います。『ジゼル』は私にとってエトワール・ダンサーになると心に決めたきっかけとなった作品でもあります。一幕目の“狂気のシーン”を演じるのはとても大変でしたし、二幕目の“アルブレヒトへの赦し”の場面も大変でした。それが成長に繋がりましたが、今踊るとまた違ったものになると思います。

 作品がキャリアのどの時点で訪れるかということによっても異なります。何度も踊ることで違った角度から作品や役を見ることができますし、パートナーの存在も大きいですね。パートナーが変わることでそれまで想像していなかったような役の見方ができたり、相手が提案することでそれまでの自分のパターンとは違うものを演じたりすることがあります。

 踊るうえで自分のビジョンはもちろんありますが、パートナーのビジョンもあるので、それを知ることで深まったり、変化したりするんです。いろんな要因が成長に繋がりますので、役が良くなるにためは、やはり何度も何度も踊ることが大切で、それによって役も深まっていくと思います。

——バレエダンサーは踊るという動きだけでなく、演技力も求められます。ドロテさんは“今”のご自身にどんなことを見出していますか?

 表現は私がいつも大切にしていることです。これまでずっと続けてきた経験があったからこそ、豊かにできるのかもしれませんが、表現というものは日常生活や人生にも影響してきますね。私は若い頃からバレエが好きでしたが、何かを演じること、物語を語ることに一番の魅力を感じていました。

 数あるバレエ作品の中でも演劇的な作品が自分にとって大切ですし、幸いにも若い頃から表現を必要路する作品に出演する機会にも恵まれました。何度も踊ること、年齢を重ねるたびに役を深めることができる訳です。今回のガラ公演では、作品の一部をかいつまんで踊るので全幕で踊るのとは違いますが、演じ甲斐のある作品ばかりです。

2023.08.01(火)
取材・文=山下シオン
撮影=佐藤 亘
通訳=上野 茜