きっかけは親しい編集者から寄せられたこんな“情報提供”だった。
〈彼女は最近、犬のほかにもエミューを飼い始めました〉
“彼女”というのは彼の同僚で、私も当時、仕事でお世話になったサホさんである。サホさんが3か国語を操る才女であることは知っていたが、エミューを飼っているとは知らなかった。(全3回の1回目/#2に続く)
![会社員女性が飼うエミューのグルート](https://crea.ismcdn.jp/mwimgs/6/1/1280wm/img_61d29b91029e0a491ab2bb0d84724757201985.jpg)
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ご存じない方のために説明しておくと、エミューとはオーストラリア原産の巨大な鳥で、オーストラリア全域の草原や砂地など開けた土地に生息している。体高が1.5mから1.9mあり、これは現生鳥類ではダチョウに次いで世界で2番目の大きさである。翼は退化していて飛べないが、強靭な2本の脚で走り、その時速は40km以上に達する。
個人的に最もロマンをそそられるのは、「世界一危険な鳥」と称されることもあるヒクイドリに近い仲間であるという点である。
そのエミューをサホさんは飼っているという。いったいどこからやってきたのか、普段はどこにいるのか、何を食べているのか、危険じゃないのか……次から次へと「?」が湧いてくる。こうなったら、会いにいくしかない。
家のゲートには〈WARNING(警告)〉の文字
東京都心から西へ電車で約1時間、さらに最寄り駅から車で30分ほど走ると、旧い街道の面影を色濃く残す山あいの道へと入っていく。やがて辺りは東京から2時間ほどの場所とは思えない里山の景色となり、ようやく目的地に到着した。
アメリカの牧場のような木製ゲートには〈WARNING(警告)〉の看板が掲げられ、そこにはこう書かれている。
〈 THIS PROPERTY IS PROTECTED BY A HIGHLY TRAINED EMU(この土地は高度に訓練されたエミューによって守られています)〉
![ユーモアも感じさせる〈WARNING(警告)〉の看板](https://crea.ismcdn.jp/mwimgs/8/3/1280wm/img_83aec311fe423257a0760f34061f416b438635.jpg)
ログハウスの中から出てきたサホさんが「遠いところをはるばる……」と笑いながらゲートを開けてくれた。敷地に一歩足を踏み入れると、何となく視線を感じる。
いた。広い敷地の一角にフェンスで囲われた小屋があり、そこから長い首を伸ばしてこっちを見ているのがエミューの「グルート」だ。その名前は、マーベル映画『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』にも登場する木のような姿のキャラクターにちなんだという。
2025.02.07(金)
文=伊藤秀倫