「映画の中でグルートは、言葉がちょっと通じないというか、仲間から何かを説明されてもよく意味がわかってなくて変なことをしちゃうんですけど、すごく重要な役割を果たすんです。好きなキャラクターだったし、コミュニケーションが成立しているかわからないけど、キュートな魅力があるところが何か似ているかな、と思ってつけました」(サホさん、以下同)

なぜエミューを飼おうと思ったのか?

 グルートに会う前に、まずは屋内でサホさんに話を聞く。

――もともとエミューを飼いたいと思っていたんですか?

「それが全然なんです。ここに引っ越してきて、たまたまこういうことになりました」

 そう語るサホさんの傍らには2頭の犬(ホワイトスイスシェパードのゼルダとフラットコーテッドレトリバーのリラ)が控える。そもそも最初のきっかけが“犬”だったという。

「私はもともと田園都市線沿いのペンシルハウスみたいな家に、夫とホワイトスイスシェパードのソフィ(※2024年3月に他界)と住んでいたんです。それで『もう1頭、犬を飼いたいな』と思って、夫に相談したら『だったらもっと広い家を探さないと』ってなったんです。そこから土地を探し始めました」

 ギリギリ通勤可能な都心から2時間圏内を円で囲んだエリア内で、予算に合う土地を探すこと2カ月あまり。ようやく見つけたのが、この場所だった。

 1200㎡の敷地に建つログハウスは、ログハウスメーカーがスウェーデンから運んだ木材で「あっという間に」組み上げたものだというが、いかにも快適だ。ログハウスの前には“庭”というよりは“ドッグラン”と呼ぶべき広大なスペースが広がり、当然のごとく家庭菜園もある。

田舎暮らしの“敵”は生い茂る雑草

 こうして「もう1頭、犬を飼いたい」という思い付きから始まったサホさん夫妻の移住計画が実現したのは、世間がコロナ禍に突入する少し前のことだった。

「以来ずっとキャンプしてるみたいな感覚です(笑)。会社に行って帰ってくるだけでもバスで峠を越えたり、トコトコ電車に揺られたりで2時間かかりますが、小旅行気分で面白いんです。逆に都心に住んでいた頃の方が、満員電車では何にもできなかったので、通勤時間は短くても辛かったかもしれない。その後、コロナ禍でリモートワークも定着したので、今では週に1、2回出社すればよくなりました」

 サホさんの仕事は海外との交渉がメインであり、時差があるため、日中は自宅で畑仕事をすることも多い。とくに夏場は、ぐんぐん生い茂る“雑草との戦い”だったという。

「畑とドッグランだけじゃなくて、家のまわりの土手も各家庭が管理するという地域の慣習があって、サボるわけにはいきません。これは大変だな、と思って、雑草を食べてくれる動物を飼おうと思ったんです」

 そこで、エミューなのである。

2025.02.07(金)
文=伊藤秀倫