この記事の連載
- 安達もじり監督インタビュ―【前篇】
- 安達もじり監督インタビュ―【後篇】
あの日、京都にいた自分だからできること
――被害が大きかった長田区にあって、奇跡的にそのままの形で残っている「丸五市場」が、物語の中で重要な場所として登場します。
安達 震災が起こった1995年1月17日は火曜日で、丸五市場は定休日でした。だから長田の街が一気に延焼する中、あの市場だけは火事を免れたのではないかという話を聞きました。
今回の映画では「丸五市場」という実際の名前をのまま使うと決めていたので、嘘がつけない。市場に関わるいろんな方に話を聞いて、震災後どういう状態だったのか、これまでどんな思いで来られたか、そこをちゃんとリアルに描きたいと思いました。
何度も「建て替えの話が出ては頓挫して」をくり返しながら、「現状をなんとかしたい」と思っている方々がたくさんいらっしゃる。その歴史と、皆さんの思いの片鱗を表現できたら、という気持ちで作りました。
――30年前の1995年1月17日、あの日、そしてその後、どんなことを感じましたか?
安達 当時私は高校3年生でした。京都の生まれ育ちなので、神戸というと距離としては近いのに、完全に対岸にいた感覚です。地震のあとすぐに大量にカイロを買って神戸まで運んだりして、いろんな光景を目の当たりにしましたし、それは鮮明に覚えているのですが、「距離が近いからこその後ろめたさ」がありました。それは今でもあります。だから、自分には震災を語ることはできないと、ずっと思っていました。
そうした理由から、震災をテーマにしたドラマ作りに参加することも実は避けてきました。そんな中、5年前に「心の傷を癒すということ」にチーフ演出として携わる機会をいただいて。「心の傷〜」は「安克昌さんという人をとことん描きたい」と思いながら、神戸の皆さんに話を伺いました。
取材を通じて、あくまでも私自身が語ることはできないけれど、震災を経験した方々の思いを「きちんと受け止めて、届けていかなければ」という思いが徐々に強まっていきました。このときにできた神戸の方々とのご縁が、今回の『港に灯がともる』につながっています。
安達もじり(あだち・もじり)
NHK大阪放送局ディレクター。主な演出作品は連続テレビ小説「カーネーション」「花子とアン」「べっぴんさん」「まんぷく」「カムカムエヴリバディ」、大河ドラマ「花燃ゆ」、土曜ドラマ「夫婦善哉」「心の傷を癒すということ」(第46回放送文化基金賞最優秀賞受賞)「探偵ロマンス」、ドラマスペシャル「大阪ラブ&ソウル この国で生きること」(第10回放送人グランプリ受賞)など。映画『港に灯がともる』はNHKエンタープライズ在籍時に製作。
『港に灯がともる』
2025年1月17日(金)より新宿ピカデリー、ユーロスペース他全国順次公開
出演:富田望生 麻生祐未 甲本雅裕
監督・脚本:安達もじり
脚本:川島天見
音楽:世武裕子
製作:ミナトスタジオ
配給:太秦
https://minatomo117.jp/
2025.01.17(金)
文・写真=佐野華英