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隠された多くのメタファー

――静と動、どちらの瀧内さんも魅力的でした。

瀧内 ありがとうございます。

 これまではどちらかというと、明子のようにパワフルな女性や、自立した強い女性を演じることが多かったので、私にとっても今回の靖子は挑戦しがいのある役でした。観てくださった方が、それぞれのイメージで靖子を観ていただけたらうれしいです。

――本作の見どころを教えてください。

瀧内 本作には数多くのメタファーが登場します。儀助が世界情勢を説明するくだりで、「先生はメタファーの話をしているのよ」と靖子が説明するシーンがありますが、枯れた井戸に水を蘇らせる、隣人の存在、犬の糞など、劇中にはあらゆるところに、メタファーが隠されています。それを発見しながら観ていくのも、本作の面白いところだと思います。

 東京国際映画祭で上映したときは海外のお客さまが多かったのですが、フランス文学の素養があるヨーロッパ圏の方たちは、作品に込められたメタファーに細かく反応して笑いが起きたんです。そこで初めて「ここにもメタファーが潜んでいた」と気づいたことも多かったので、あらためて学びの多い作品だったのだな、と感じました。私も、もうちょっとフランス文学を勉強し、理解力をつけてから、また改めて観てみたいと思います。

『敵』

1月17日(金)テアトル新宿ほか全国公開
公式サイト:https://happinet-phantom.com/teki/
宣伝・配給:ハピネットファントム・スタジオ/ギークピクチュアズ

【STORY】
渡辺儀助、77歳。
大学教授の職を辞して10年――妻には先立たれ、祖父の代から続く日本家屋に暮らしている。料理は自分でつくり、晩酌を楽しみ、多くの友人たちとは疎遠になったが、気の置けない僅かな友人と酒を飲み交わし、時には教え子を招いてディナーを振る舞う。預貯金が後何年持つか、すなわち自身が後何年生きられるかを計算しながら、来るべき日に向かって日常は完璧に平和に過ぎていく。遺言書も書いてある。もうやり残したことはない。だがそんなある日、書斎のiMacの画面に「敵がやって来る」と不穏なメッセージが流れてくる。

次の話を読む「どんなに三振が続いても打席に立てる人間だと信じる」瀧内公美が富山を離れた“行動の原点”

2025.01.17(金)
文=相澤洋美
写真=釜谷洋史
ヘアメイク=董冰
スタイリスト=三田真一/Shinichi Miter
衣装=TARO HORIUCHI
アクセサリー=Hirotaka