「おむすび」の根幹はやっぱり“ギャル”にあると思うワケ

 加えて、ギャル。「おむすび」にとっての「ギャル」は上っ面のファッションでも、「奇を衒った客寄せコンテンツ」でもない。スピリットであり哲学であり、幸福論ともいえる。真紀の信条を歩が色紙に書いて残し、ハギャレンから結に伝わった「ギャルの掟」3箇条は以下のとおり。

掟その1 仲間が呼んだらすぐ駆けつける
掟その2 他人の目は気にしない。自分が好きなことは貫け
掟その3 ダサいことは死んでもするな

 これは、制作陣が数多くの元ギャルに取材して感じ取ったことを集約させた文言だという。作り手はこの至極シンプルな言葉に、『おむすび』の根幹を見出したのだろう。ギャルマインドは、固く心を閉ざしていた結を「本来の自分」に回帰させ、震災で親友の真紀を喪い引きこもりになっていた歩を再生させた。そして「ギャルの掟」のオリジネイターである真紀が、巡り巡って父である渡辺を暗闇から救い出す。制作統括の宇佐川氏は、「掟その2 自分が好きなことは貫け」が意味することについてこう語っている(※2)。

《「自分の“好き”を知り、自分を知る」というのは結局、「人間というものを知る」「人の気持ちを知る」につながるのだ思います》

 「自己愛」でも、自分を「甘やかす」のでもなく、自分を「大切にする」。そうすることで、他者も同じ「心」を持った人間なのだと知り、尊重することにつながる。「おむすび」の作り手は、こうした普遍的で大切なことを「ギャルマインド」を通じて伝えようとしている。それはつまり、寛容への願いともいえよう。

 このドラマにハマる人の多くは、結と、そして『おむすび』という物語と同じステップで、ギャルへの偏見を解かしていった。はじめは「ギャル? その要素必要?」と言っていた視聴者が、結と同じプロセスをたどって彼女たちを「知る」ことで、今では「ハギャレン最高!」という心持ちになっている。そうした温かな光景を、SNSで多く見かける。

2024.12.27(金)
文=佐野華英