細部に宿るプロダクトへのこだわりは演劇制作の哲学と重なる

 ヴェイランスの魅力を語るうえで、究極のシティウェアを追求する飽くなき姿勢も忘れてはいけない。

 テクニカルでソリッドな美しさをもつ一方、製品の裏側の縫製やエッジの処理は熟練した職人の手作業によるものだったり、ユーザーの使いやすさを考慮した工夫やディテールが施されていたり、随所に“血の通った”こだわりが詰まっているのだ。

 そうした細部に宿るこだわりは、自身の演劇制作と通ずるものがあると升味さんは話す。

「素材、技術、デザインなどの細かいこだわりが絶妙に融合したヴェイランスのプロダクトと同じく、舞台も、役者、音響、照明、舞台美術など、多くの要素が組み合わさって成り立ちます。そのため何よりも一人ひとりと細かくコミュニケーションを取ることを大切にしています。ただ主宰という立場ゆえに彼らに心理的な負担をかける可能性もあるし、セルフケアだって必要。そのため最近はリスペクトコミュニケーション研修を行ったり、ハラスメント相談窓口を設置したりしています」

 スタッフ=内側だけでなく、観客=外側に対するこだわりも細やかだ。

「車椅子の利用者向けトイレや視覚・聴覚障害者向けのパンフレットを用意したり、託児サービスを用意したり、あらゆるお客様のアクセシビリティをよくしたいという思いはずっとあります。また、トリガーワーニング(心理的トラウマを呼び起こす可能性のある部分が含まれていることを事前に警告すること)を取り入れ、透明化されがちな人々に配慮しながら観劇体験の質を高める努力もしています」

「演出面では、以前ワークショップで学んだ“モーメントオブジョイ”という考え方をもとに、観客を飽きさせない舞台づくりも心がけています。たとえば前回の舞台では、役者それぞれの出ハケの位置や角度によって変わる回転セット、同時多発会話などの仕掛け、役者の声色や台詞のスピードを微妙に変えるなどなど⋯⋯。細かく構成していくのは脳が焼けそうになるほど大変な作業ですけど、細かいサプライズを続けることで、“舞台って楽しい!”と多くの人に思ってもらえたらうれしいですね」

 今回、インスピレーションを探るアートの旅でヴェイランスを身に纏い、改めてその魅力に気付かされたという升味さん。

 ミニマルに装えるデザインと心地よく過ごせる機能性。どちらも兼ね備えた究極のアーバンウェアは都市と自然をつなぎ、豊かな感性を育む一助となるに違いない。

升味加耀(ますみ・かよ)

1994年9月30日、東京都出身。2013年から作家・演出家として活動。15年、演劇学を学ぶためベルリン自由大学に留学。16年にベルリンにて主宰ユニット「果てとチーク」を旗揚げする。24年、『くらいところからくるばけものはあかるくてみえない』が第68回岸田國士戯曲賞最終候補作品に選ばれる。25年1月16日(木)からアトリエ春風舎で『きみはともだち』を上演。

2024.12.19(木)
文=平野美紀子
写真=宇壽山喜久子
ヘアメイク=宮本佳和
スタイリスト=渡邊薫