カナダ発のアウトドアブランド「アークテリクス」が、アウトドアフィールドで培った技術の集大成にミニマルなデザイン思想を加えたアーバンライン「ヴェイランス」。

 優れたテクノロジーや細部にわたるこだわり、洗練されたデザインゆえに、感度の高いファンが多いヴェイランスだが、劇作家として活躍する升味加耀(ますみ・かよ)さんもその一人だ。

「細部まで血の通った丁寧なモノづくりは、自身が目指す創作活動と通ずるものがある」

 そう話す升味さんがヴェイランスを身に纏い訪れたのは、神奈川にある「小田原文化財団 江之浦測候所」。伝統技術と現代アートが融合した総合芸術の場を舞台に、升味さんのインスピレーションの源泉やファッション観、創作におけるこだわりについて探る。


アニミズムを感じる自然のなかでアートの普遍性に触れる

 この日訪れたのは、現代美術作家の杉本博司氏によって設計された神奈川・小田原にある「小田原文化財団 江之浦測候所」。太陽の動きや自然の移ろいを観察し、それを通じて人類の意識や文化の起源に想いを馳せるアート空間だ。

 もとはみかん山だったという高台からは、青く光る相模湾が望める。じつはかねてよりここを訪れてみたかったという升味さん。忙しい合間を縫い、しばしば美術館や博物館を訪れては心を整え、自身の創作活動の糧にしているのだとか。

「静かな空間で、丹精を込めて作り上げられた作品や何世紀もかけて残されてきた風景と向き合うひとときは、心の安らぎや創作意欲につながる大切な時間です」

 江之浦測候所の敷地内を歩いていると、さまざまな質感やカタチをした石が目に留まる。古くからある石を新しい建築素材と融合させることで、伝統と現代が調和したアートに昇華させているのだ。

 そこからは、石という素材を、永続性があり、太古の記憶を留めているものとして捉え、5000年後を見据えて美しいものを創造する杉本氏の哲学が感じ取れる。

「モダンな建築のなかに八百万の神への敬畏や石にエネルギーが宿る思想など、物を長く大切にするという日本特有の精神を垣間見ることができて、普遍的で変わらないもののよさを改めて感じました

 時が過ぎて風化してもなお美しいものを作りたいという杉本さんの思想にも共感するものがあります。何十年何百年と経ったとき、作り手の名前ではなく作品が残るというところに、やはり私も作家として憧れを抱きますね」

2024.12.19(木)
文=平野美紀子
写真=宇壽山喜久子
ヘアメイク=宮本佳和
スタイリスト=渡邊薫