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 台湾には100を超える温泉があります。台湾に行ったら、温泉に入らないなんてもったいない! 1895年~1945年の日本統治時代に温泉文化が広がり、熱い湯に入れるのもうれしいところ。水着で入る温泉だけでなく、男女別に裸で入れる「日式」の大浴場や、温泉付きの部屋で自分好みに温泉を注いで楽しめるリゾートも多いのです。個性ある温泉とともに異なる民族文化や食文化も大きな魅力です。


 今回の旅は、台北・烏來温泉(ウーライ ウェンチュエン)。台湾の原住民族のタイヤル族(泰雅族)が暮らしていた地域で、「烏來」(ウーライ)はタイヤル語で「温泉」を意味します。

 台北から1時間ほどの場所にありながら、雲がたなびく山とエメラルドグリーンの渓流を眺める景勝地で、大自然とタイヤル族の文化を感じられる温泉地です。台北市内からMRT(都市高速鉄道)で新店駅まで約30分、バスも出ていますが、タクシーなら約30分、後述する温泉リゾートホテル、ヴォランド・ウーライの送迎バス(宿泊者無料)も運行しています。

■温泉街でタイヤル族の文化に触れる

 渓谷に沿って広がる温泉街の中心「老街」には、タイヤル族の“おふくろの味”食堂や、山の野菜が買える店、民族資料館や土産物店などがずらりと並んでいます。家族経営の小さな宿や家族湯を備えた日帰り温泉もあり、賑わいにワクワクします。

 タイヤル族は山で獲れる「馬告」(マーガオ)という山胡椒の一種を古来より愛用し、料理やお菓子、オイルなどにして使います。台湾独特のもので和名はなく、味わいは山椒と黒コショウのイイとこどり、爽やかなレモングラスのような香りも特徴です。

 温泉街のカフェ「渼潞(メイルー)工作坊」でタイヤル族のマスターが淹れる「馬告珈琲」が名物ときいて立ち寄りました。作り方は豆から、コーヒー豆と馬告の粒を一緒に挽きます。といっても、コーヒー一杯分につき馬告は2粒ほどだそうです。

 コーヒーの奥にほのかに感じる清涼感が絶妙な美味しさ。「馬告珈琲は医食同源。体を温めて、胃腸がすっきりする」と、マスター。

2024.12.12(木)
文・写真=石井宏子