50代に入ってからもう駄目ですね、こんなに一気に涙腺が弱くなるとは。でも理由が少し分かった気もするんです。歳が選手たちの親世代に近くなったので、我が子のように選手たちを見てしまっているのかなと。これまでとは違った目線で選手の頑張りを声で伝える。そういうふうに考えると、それもまたいいのかなと思っています。
私は学生時代、体育会のバスケットボール部に所属していました。毎日練習があったので、夏休みは旅行に出かけたこともなかったし、母校である早稲田の学園祭を見たこともありませんでした。多くを犠牲にしながら、とにかく競技に打ち込んでいました。やはりそういう所は、選手と自分の学生時代を重ねたりしましたね。『俺たちの箱根駅伝』を読んでいて思い出したことがあります。いいチームを作るにはどうしたらいいか、チームとしての課題をどうやって解決するか、自分は部のために何ができるか、こんなことを私も同期といろいろと話し合った経験があります。
でも、何を優先してやるべきだったのかというと、答えは小説内で諸矢前監督が言った言葉にありました。「チームにとって一番大切なものは何だと思う。……信頼だ。チームメイトを信じろ」まさにこれだったんじゃないかと。いま思うと、ことあるごとにミーティングは何度もしました。でも、先輩や後輩も含めてもっとチームメイトを信頼し、信頼してもらえる努力をしていれば、さらにいいチームになったかもしれないと、30年たって改めて当時を思い返しています。小説内に出てきた「他人を認めるより、否定する方がはるかに簡単だ」という言葉も心に刺さって、こんな指導者がいれば確かにチームの結果も付いてくるはずだ、と納得もさせられました。
いま箱根駅伝はどんどん高速化していますし、トレーニング環境の進化も目覚ましいものがあります。「あれをしなさい、これをしなさい」と選手への一方的な指導ではなく、選手の個性を十分に認め、選手が発してくる感情や思いを受け止めながら、自主性をうまく育てていく、そんなタイプの指導者が増えていると感じます。
2024.11.23(土)
文=町田浩徳