“壮大な虚構”の創作の価値とは?

―馬琴は正義を描きつつ壮大な虚構を作りましたが、その創作の価値とはどんなところにあるんでしょうか。

黒木 映画や舞台、本に影響を受けることで感情がさまざまに変化して、やはり想像力が豊かになります。人の気持ちを想像するってすごく大事なこと。コロナで仕事がなくなって家で過ごしたとき、さまざまな作品に触れてその思いを強くしました。人間の、少なくとも自分の人生に不可欠だなあって。

役所 司馬遼太郎さんが「他人の痛みを感じる心を育てれば、世界はよくなる」というようなことをおっしゃっています。正義ということを思っても、やはり心を育てる作品であることが世のため人のためになる。せめて作品を観終わったあとだけでも他人の痛みを感じる心が芽生える、そんな仕事をしたいと思っています。

その人物像なりの正義がある。

―悪役を演じた作品でも、結局は正義を問うこともあるんでしょうね。

役所 自分の出演作を語るのは難しいけれど、いち映画ファンとして観た作品で心が動くと、自分も同じ仕事で堂々と正義を表現しているんだと勇気が湧きます。

黒木 私は正しく生きられてないかもしれないけど(笑)、たぶんそれが人間。悪い役でもいい役でも、その人物像なりの正義がある。演じることで、さまざまな人生を疑似体験できるのが俳優業の面白いところです。

やくしょ・こうじ 1956年、長崎県生まれ。96年に『Shall we ダンス?』『眠る男』『シャブ極道』で国内映画賞の主演男優賞を独占。 その後『SAYURI』(05年)、『バベル』(06年)などで国際的にも活躍の場を広げる。23年の『PERFECT DAYS』では第76回カンヌ国際映画祭最優秀男優賞を受賞し、世界的に高い評価を得た。

くろき・はる 1990年、大阪府生まれ。10年にNODA・MAP番外公演『表に出ろいっ!』で本格的に役者デビュー。その後映画に進出し、『舟を編む』(13年)などを経て『小さいおうち』(14年)でベルリン国際映画祭銀熊賞を受賞。主な主演作に『リップヴァンウィンクルの花嫁』(16年)、『日日是好日』(18年)などがある。

2024.11.09(土)
文=渕 貴之