コピーライターで「ほぼ日」社長の糸井重里さんと、日産「セレナ」の「モノより思い出。」などを手がけたクリエイティブディレクターの小西利行さんが、名コピーの裏側について、9月19日、20日に配信された「文藝春秋 電子版」のオンライン番組で語り合った。

博報堂で出会った「糸井重里の教え」

 小西さんが博報堂でコピーライターとして働き始めたころ、指針にしたのが糸井さんのある格言だという。

「博報堂に、誰かがもらってきた糸井さんの格言が書かれた紙があったんです。『素考(すこう)・素直(すちょく)・素行(すこう)』という三つの『素』が、糸井さん直筆で書いてあって、僕はそれを壁に貼って、見ながら仕事をしていました。

『素』を実践するのは難しいですが、『自分が前に出たい』とか、『競合製品を抜きたい』といった余計なことを一切捨てて、自分よりも遥かに良いアイデアに出会ったらめちゃくちゃ悔しがるし、すごいと思えばちゃんとすごいと言う、ということをずっとやってきました。今でも三つの『素』のなかにいます」

 自身が経営する人気ハンバーグ専門店『挽肉と米』の店名の発想にも「素直さ」を大事にしていたと小西さんは言う。

「挽肉がすごくて米が美味しい店をやりたい。じゃあ『挽肉と米』でいいんじゃない?って言ったときの周囲の衝撃がすごかったんですよ。『そのままじゃないですか』と。それでも、『いや、それが一番かっこいい』と思えるようになったのは自分でも成長したなと思いました」

 糸井さんも『挽肉と米』の店名は「大胆」と評価した。

 

「ハンバーグ側のおいしさを言いたくなりますけれど、『挽肉』と『米』を並列させたことによって会社が米に手を抜けなくなりましたよね(笑)。それに、米が美味しいって言えば言うほど『実はハンバーグも』って言いたくなる。挽肉って書いたことによってフレッシュさも出ていて見事。僕がクライアントだったらこんなふうに褒めます(笑)」

2024.10.26(土)
文=「文藝春秋」編集部