作家、音楽家、画家、建築家、そして「いのっちの電話」の相談員など、ジャンルの垣根を飛び越えたユニークな活動で支持を集める坂口恭平さん。今年8月には初のエッセイ集『その日暮らし』を刊行。熊本の土地と大切な人々との出会い、家族との何気ないやりとり、コロナ禍にはじめた畑、壮絶な鬱との格闘……。やさしい言葉で淡々と素直に綴られた日々の中には、ともすれば不安に押し潰されかねない時代に、私たちがのびのびと生きのびるための「新たな種」が蒔かれていました。
うちの家族は「察してモード」禁止
――『その日暮らし』は西日本新聞の連載をまとめたものです。坂口さんはこれまでに50冊近く本を出していますが、こういった日常エッセイはありそうでありませんでした。
確かにそうですね。ただ、Twitter(X)ではずっと日々の出来事を記録していて、その日やったことや作った料理や家族の言葉まで全てをアーカイブしていたので、その延長的な感じで。特に何を書こうというわけでもなく言葉が出てきた感じでした。
――友達が遊びに誘いに訪れても、家族旅行に誘っても「ひとりでいたいから今日はやめとく」というマイペースな息子のゲンくんを怒るでも心配するでもなく、「ゲンは自分がどうすれば安心するのかを熟知している」と敬意を払う、坂口さん。鬱で部屋に閉じこもる坂口さんを「パパ休むのが苦手だし、鬱が来ないとしっかり休めないからね」と見守る、妻のフーさんと娘のアオちゃんと息子のゲンくん。絵に描いたような「理想の家族」とは違う。風変わりだけれど確かな信頼で繋がった家族の姿に惹き込まれます。
俺は好きなことはいくらでもできちゃうけど、自分がやりたくないことをやろうとするとしんどくなる。それこそ鬱になったら部屋から一歩も出れないから普通の親らしいことはできない。だから、俺はお前らになんで外で遊ばないんだとか指摘しないから、お前らも俺に父親らしくないって指摘すんなよって(笑)。子供たちは俺のことを親ではなく親友だと言ってるし、家族というよりチームに近いですね。
――逆に、これだけは大切にしているという家族のルールはありますか?
うちの家族は「察して禁止」なんですよ。怒ってるとかさびしいとか、思ってることは言葉でちゃんと吐露して話し合う。特に、うちらと同年代の夫婦だと会話がなくなって察してモードになってる人が多いけど、俺にすればもったいない。家族って暗黙の了解みたいなことが増えていくと「制度」になって、おもしろくなくなっちゃう。だから、何かあったら話して、ときには家族内で起こっていることを第三者に相談に行く。そういうのを超えて、俺自身ラクになったし、音楽や絵といった創作だけでなく、家族の中にこそクリエイションを持ち込むべきだと思ってますね。
2024.09.28(土)
文=井口啓子
撮影=佐藤 亘