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同性愛者を演じた若葉竜也が考えた「愛」

――若葉さんは、同性の恋人がいる役柄でしたが、同性愛の取り上げ方について監督とお話ししましたか?

若葉 男性とか女性とか、友達とか恋人とか関係なく、人間が人間を愛おしく思う、みたいなことをやりたいと伝えましたね。

 僕は、監督がお話した吃音の少女の「放っておいてほしい」という言葉に、すごく共感するんです。

 きっと自分が当事者だとしたら、「普通に生きてるだけなんだから放っておいてよ」と思う瞬間があるんじゃないかな。

撮影10分前まで相談した「荒川と五十嵐のシーン」

――映画の撮影は、脚本の順番通りに撮影していくわけではないと思いますが、今作ではいかがでしたか?

奥山 荒川と五十嵐については、映画に出てくる順番でほぼ撮影できましたね。天候に左右されるシーンが少なかったので。

若葉 外で撮ったのは、ガソリンスタンドのシーンくらいでしたね。

――その中で、印象的だったシーンはありますか?

若葉 監督と池松さんと僕で、ずっとコミュニケーションを取りながら撮影したシーンがありましたよね。

奥山 ベッドで横たわりながら、荒川と五十嵐がぽつぽつと語り合うシーンですね。もともとあのシーン、プロット段階では喧嘩に発展するような流れを考えていたんです。でも、脚本を書く過程で五十嵐のキャラクターが固まっていくと、喧嘩をして出ていくような人物には思えなくなってしまいずっと悩んでいたんです。結局、悩んだまま映画の撮影が始まってしまって、移動中に台本を直してはお2人に送って、を繰り返していました。終いには、固まらないまま撮影当日になってしまい、池松さんと若葉さんと台本を囲んでシュート10分前までアイディアを出し合いました。あの時はワクワクしましたね。本来、監督としては情けなく思うべき状況なんですが……。

若葉 全然情けなくないですよ。非常に貴重な時間でしたし、ああいう対話を重ねていくから、自分はやっぱり映画の現場が好きなんだと改めて思えました。結局、最初の台本に戻したんでしたよね?

奥山 戻したところもありましたね。

若葉 対話を積み重ねてから演じるので、同じ台本でも、最終的には違うシーンになったと思えました。荒川と五十嵐の心の機微みたいなものがいっぱい詰まった状態で元のセリフをしゃべるので。

――他の現場でも相談しながら台本について考えることは、よくあるんですか?

若葉 あります。でもあんな贅沢な時間はなかなかないです。僕と池松さんはその場だけでなく、撮影期間中ずっと話し合っていましたから、その時間でお互いの温度とか、言葉の波長が合っていったんじゃないかなと思います。映っていない部分で、荒川と五十嵐の時間を重ねていったとも言えますね。

 何か違うと思ったら、変更するのではなく、初めに戻す方法もあるんだなと思いましたし、対話を重ねたからこそ出てきたシーンだと思いました。

インタビュー【後篇】に続く

映画『ぼくのお日さま』

雪の降る田舎町。ドビュッシーの曲「月の光」に合わせてフィギュアスケートを練習する少女さくら(中西希亜良)に心を奪われる、ホッケーが苦手な吃音の少年タクヤ(越山敬達)。さくらのコーチを務める元フィギュアスケート選手の荒川(池松壮亮)は、タクヤの恋を応援しようと決め、彼にフィギュア用のスケート靴を貸して、練習に付き合い始める。さらに、荒川の提案で、タクヤとさくらはペアでアイスダンスの練習を始めることに。

https://bokunoohisama.com/

全国公開中

奥山大史(おくやま・ひろし)

1996年東京生まれ。長編デビュー作『僕はイエス様が嫌い』で第66回サンセバスチャン国際映画祭最優秀新人監督賞を受賞。その後、多数のミュージックビデオで監督や撮影を務めるほか、Netflix「舞妓さんちのまかないさん」で監督・脚本・編集を担当。本作が、今年の第77回カンヌ国際映画祭オフィシャルセレクション部門へ日本作品として唯一選出された。

若葉竜也(わかば・りゅうや)

1989年生まれ、東京都出身。2016年、無差別殺人事件を扱った映画『葛城事件』に出演し、第8回TAMA映画賞・最優秀新進男優賞を受賞。2024年には主演を務めた映画『ペナルティループ』が公開された。このほか、『前科者』『窓辺にて』(以上2022年)、『ちひろさん』『愛にイナズマ』『市子』(以上2023年)など出演作品は多数。公開待機作に『嗤う蟲』(2025年公開予定)がある。

次の話を読む「説明を重ねるほどどこか他人事に…」映画『ぼくのお日さま』奥山大史監督が作品に残した“余白”

2024.09.20(金)
文=ゆきどっぐ
写真=細田忠