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最初の発想はわかったさんの「赤ちゃん絵本」

――それで新作を書く決意をしたんですね。

永井 わかったさんは、いずれ40周年を迎えます。そうすると、読者はもう2代目。もしかすると、最初の読者の孫世代が読むものになるかもしれません。それで最初は、赤ちゃん絵本を企画しました。

――赤ちゃん絵本はどのような内容だったんですか?

永井 わかったさんは、クリーニング店で働く若い女性で身長が高いのですが、赤ちゃん絵本では線を太くして、小学校高学年から中学生くらいのキャラクターにしたんです。メニューは、離乳食としても親しみやすいふかし芋。文章も少なくシンプルにしました。

 けれど、あかね書房へ持っていったら、「わかったさんはお話の面白さが大切で、絵がかわいいだけでは難しい。寺村先生のファンが見ても納得できる作品じゃないと」と言われたんです。それで悩んでいたら、編集担当者が「もうすこしだけ長いテキストに挑戦してみませんか?」と提案してくれました。寺村先⽣の書いた「わかったさんのおかし」シリーズは1冊80ページですが、いろいろ検討したうえで、新しいシリーズでは原稿の枚数を減らし、絵は全部カラーにして、64ページの本にすることになったんです。

 それで、あらためて原稿を書き終えて渡したら、「寺村さんの世界を捉えながら、永井さんの世界も表現できた読み物になっている」と言ってもらえて、制作がスタートしました。

――寺村先生の作ったわかったさんの世界を、新作でも大切にしたのですね。

永井 やっぱり読者を裏切ってはいけないんですよね。わかったさんを主人公にする以上は、「全然違う」と言われたら意味がないんです。

 だから寺村先生が書いた「わかったさんのおかし」シリーズを何度も読み直して、世界観を確実に守れるように資料にまとめることから始めました。「1丁目はマンションがたくさん立っている」「2丁目には公園や学校がある」といった位置関係や、句読点を打つ法則性まで。わかったさんの住む町を描いた見返しの地図も昔のものを抜粋して使用し、一部描き加えることにしました。

わかったさんの全シリーズに登場する寺村輝夫の似顔絵イラスト

――新作のお菓子をスイートポテトにした理由は何ですか?

永井 もともと赤ちゃん絵本でふかし芋を考えていたから、自然の流れで決まりましたね。これまでのわかったさんでは、クッキーやシュークリームといった王道のお菓子を作っていたので、クイニーアマンとかクレームブリュレのような現代的なお菓子に挑戦するよりは、みんなになじみのあるスイートポテトもいいかもね、となった気がします。

――『わかったさんのスイートポテト』の作中では、お髭を生やした寺村先生らしき肖像画を見つけて、リスペクトを感じました。

永井 実は、「わかったさんのおかし」シリーズの全巻に寺村先生の似顔絵を描いているんですよ。当時の編集担当者や寺村先生の奥様、お孫さん、お嫁さんも描きました。寺村先生も似顔絵に気づいていたのでしょうけど、指摘されたことはなかったですね。

――わかったさんの衣装がすごくかわいいのも印象的でした。時代に左右されないデザインですよね。

永井 『おしゃれさんの茶道はじめて物語』(永井郁子・作絵/淡交社)を描いたとき、小中学生向けのファッション雑誌を参考にして、今どきの服装を意識しましたけれど、わかったさんは流行を追いかけないことで、時代に左右されない服装になりましたね。

 『わかったさんのクッキー』の服装は、当時私が着ていた服を再現したものです。ツートンカラーのリーガルの靴が流行っていたんですよ。2~3作目からは自分で考えるようになりました。『わかったさんのアップルパイ』で表紙を飾ったウエディングドレス姿も自分でデザインを考えて、表紙で白のドレスだと涼しすぎるので、少し黄色にしましたね。

2024.09.13(金)
文=ゆきどっぐ
撮影=山元茂樹