ドラマ本編が終了してもサエコさんブームが冷めることはなかった。今でも彼女を崇める声は絶えず、“最強モテ女”サエコさんの面影は、そのまま石原自身のパブリックイメージに繋がった。
現に『失恋ショコラティエ』以降、石原が主演する恋愛ドラマのほとんどが、誰かに恋する側ではなく“誰かから好意を寄せられる側”。世の女性たちを投影したキャラクターではなく、理想を詰め込んだ存在なのである。
30代女性が主役のラブストーリーは、晩婚化を象徴するような“こじらせ系ヒロイン”が主流になる一方で、石原だけは常に“女子のあこがれ”を体現しつづけてきたのだ。
超豪華キャストの中心で放つ圧倒的なオーラ
「かわいい」のその先も女優・石原さとみのステージが続いていることを世に知らしめたのは、やはり『アンナチュラル』の三澄ミコトである。第1話から婚約者にフラれ、「キツイ・汚い・危険にクサい」といった“7Kのマイナスがある”法医解剖医のヒロインは、石原の代名詞である“モテ”の対極にいるのかもしれない。
しかし、あの超個性的で豪華なUDIラボメンバー(井浦新・窪田正孝・市川実日子・松重豊)の中心にいても埋もれることのない圧倒的なオーラと彼らを巻き込む求心力、そして些細な綻びも躊躇いなく口に出す芯の強さは、これまで石原が培ってきたヒロイン像に間違いなく由来する。
『リッチマン、プアウーマン』(フジテレビ系、2012年)の真琴も、『ディア・シスター』(フジテレビ系、2014年)の美咲も、『5→9~私に恋したお坊さん~』(フジテレビ系、2015年)の潤子も、そしてあのサエコさんも、ただ“かわいい”だけの女性ではなかった。“かわいい”で内包されたその芯のある強さ。それこそが、私たちが石原さとみに恋焦がれていた理由だったのだ。
「絶望してる暇あったら、うまいもん食べて寝るかな」
これは『アンナチュラル』の中で、筆者がとりわけ好きなミコトの台詞である。その言葉の通り、本作には食事のシーンがたびたび登場する。食事をすることは、つまり自分の“明日”をつなぐこと。それは理不尽な世の中において、我々が出来るささやかな抵抗であり、最大の攻撃なのかもしれないと、6年経った今も思う。
『アンナチュラル』、『MIU404』、『ラストマイル』チームが、2024年にどのようなメッセージを残すのか、改めて楽しみだ。
2024.08.31(土)
文=明日菜子