「職人気質で自分に厳しい人」鳥山明が「ドラゴンボール」連載中に愚痴っていたこと〈「Dr.スランプ」アニメ化担当・辻真先(92)インタビュー〉〉から続く

アニメ・特撮ドラマの脚本家として活躍してきた辻真先氏は、手塚治虫作品や鳥山明作品のアニメ化における脚本も担当してきた。その辻氏が、鳥山明との仕事について振り返る

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赤塚賞の審査会では…?

 手塚先生は、とにかく話のネタをたくさん持っていて、作品を展開することに苦労しなかった人でした。打ち合わせをしても、10個のうち7個くらいは「天下の手塚治虫がこんなアホなことを言うのか!?」と疑いたくなるほどくだらない話をするんですよ。ですが、最後の一つ二つになると、こちらが「参りました」と膝を正して謝りたくなるほど素晴らしいアイデアが出てくる。

 氷山の海面から下の、目に見えない裾野の部分、いわば作品の役に立たないようなくだらない話を手塚先生は恥ずかしげもなく、打ち合わせで披露するのです。そうすることで頭の中では徐々にアイデアが練り上げられていったのでしょう。それこそが手塚先生が次から次へと作品を生み出す秘訣でもあったと思います。

 逆に鳥山さんは、氷山の下の部分はあまり見せないタイプだったように思います。

 手塚先生と鳥山さんの違いは、身近に気のおけない話し相手がいるかどうかによるのかもしれません。漫画の神様と言われるほど偉かった手塚先生には気軽に話せる年下の編集者がいくらでもいました。

 

 でも、鳥山さんの場合は、自分を見出してくれた年上の編集者である鳥嶋(和彦)さんがどんどん出世して、最後は「少年ジャンプ」の編集長にまで上り詰めてしまった。その後も偉い編集者ばかりが担当につき、おそらく控え目な鳥山さんの性格を考えれば、思いつきのアイデアを打ち明けるどころか、背伸びしながら話さなければいけない状況が多かったのではないでしょうか。

2024.08.11(日)
著者=辻 真先