この記事の連載
- 松原タニシ『恐い怪談』インタビュー 前篇
- 松原タニシ『恐い怪談』インタビュー 後篇
執筆中の怪現象「カジョーラー」
――すべての話が、『恐い怪談』を構成するのに必要なパーツということですね。繰り返し読むことで、新たな発見もありそうです。ちなみに今回、執筆中に恐い現象などは起こりませんでした?
実はあったんですよ。オカルト的に言えば霊障、医学的に言えば単なるストレスだと思うんですが、書こうとするとなぜか体が痒くなるんです。
特に、〆切が近くなると蕁麻疹がブワーッと出て、痒みのなかで執筆するという状況が続いていたのですが、この間、イベントで訪れた沖縄でその話をしたら、「それはカジョーラーですね」って言われて。
カジョーラーというのは、悪霊の仕業で起こる蕁麻疹のことで、沖縄ではよくある現象として捉えられているそうです。若い人でも、おじいちゃんおばあちゃんがそう言うのを聞いたことがある人は多いようで、イベントのお客さんのなかにいた皮膚科の先生は「私はカジョーラーでも治せます」とおっしゃってました。
――皮膚科で治るんですね。その痒みは、特定の話を書こうとすると起こるとか、何らかのパターンがあったのでしょうか。
いや、どうやったかな……そう言えば、本の終盤の10話くらいは本当に最後のほうに書いたのですが、カジョーラーが頻発しました。〆切のストレスといえばそれまでですけれど、実際、さまざまな恐さを煮詰めて濃縮したような話が続くのも、その終盤あたりなんです。蕁麻疹は恐いっていうより、困ったことですけれど。
――後日談がある怪談はありますか? 昨年刊行された『恐い食べ物』に収録されている、タニシさんが16軒目に住んだ事故物件の後日談が『恐い怪談』に収録されていて、戦慄が走りました。
今回はまだ目立ったことは起こっていませんが、終わったと思っていた話が、まだ終わっていなかったということは、たまにありますね。それと、後日談とは違うのですが、怪談の本を出したり、人前で話したりすると、似たような話が次々と集まってくることが多いです。
今回の本に、手のひらから金粉が出る人の話を入れたのですが、それをYouTubeで話したら、「私も出ます」っていう人がけっこういて。怪現象かと思いきや、意外とよくあることなのかもしれないなと思ったり。
編集M (話を聞いていたCREA編集部・M氏が急に)私も出ますよ、金粉。
えっ。
編集M 今日は出ないみたいですが、同じ金粉体質の人がいると出やすいんです。
――金粉体質。初めて聞くワードです。
ほらね(笑)。こんなふうに集まってきた話、いろいろな地域で聞かせてもらった話を材料として、『恐い怪談』は生まれました。10年以上にわたって事故物件に住み、ちょっとやそっとの霊現象では恐がれなくなってしまった僕が、いまどんな話を恐いと感じるのか、そしてみなさんは何を恐いと思うのか、この本を道しるべに、探ってみてください。
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恐い怪談
定価 1,650円(税込)
二見書房
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2024.08.10(土)
文=伊藤由起
写真=志水 隆