入口からところ狭しと並べられた古道具を分け入って進むと、カウンターと椅子が設えられており、店主の類はいつもそこに座って道具の手入れをしている。客が来たときは、ここで会計や買取り、取り置き、エトセトラの相談をするのだ。

 御蔵坂類は、一見してわかる通り純日本人ではない。母親が英国人なのだという。「ルイ」という名前も、どちらの国でも通じるようにとつけられたらしい。遠目でも色素の薄さが目立つ彼が、この北陸で小さな古道具屋をやっているというのは、なかなかにユニークな絵面だと思う。

「響さん、ちょっとこれを見てくれよ」

 頬杖をついた彼はなんの前置きもなく、手に持っていた細長いものを差し出してきた。一本の万年筆だった。黒い漆の地に、金箔で細かな細工が施されている。

「これは?」

「呪いの万年筆」

 らしいよ、と彼はわざとらしく棒読みをした。

 類は一人分の紅茶を淹れてくると、改まった口調で、ある有名な名を口にした。

「――っていう、昔の作家を知っているかい? 『その人の使っていたものだ』と持ち込まれた品なんだ」

 この町には「四文豪」と呼ばれるゆかりの作家がいる。類が挙げたのはそのなかの一人だった。四人のなかなら俺は鏡花が一番好きだったが、その文豪の作品もまあまあ読んでいた。

 どこで美蔵堂を知ったのかは不明だが、ある日いきなり高齢の男性が「供養してほしい」と万年筆を持って来たらしい。詳しいことはなにも語ってくれなかったという。

「見た感じ旧くはないから偽物じゃないかと思うけれど……『呪いの』と言われちゃあね。直感だけれど、そっちは本物な気がしたんだ。それで、文学に詳しい君にもぜひ意見を訊いてみたくてね」

「また『霊つき』か……」

 俺がつばを飲み込むと、類はくるくると万年筆を回してみせた。

「もう、いつも人がバタバタ死ぬ話ばかり書いているくせに。響さんもおばけなんだから大丈夫だよ。それに約束したろう? 『相互扶助』をしようって」

2024.07.12(金)