さまざまなジャンルで多彩な才能を発揮しているウエンツ瑛士さんは、毎年、ミュージカルやストレートプレイなど、話題の舞台作品にも出演し、活躍している。そんな彼が今回挑むのは20世紀モダニズム文学の重鎮、ヴァージニア・ウルフの代表作『オーランド』。この作品を通して、どんな人物を体現するのだろうか?

“自分って何なんだろう”と俯瞰するところへ行き着く瞬間がある

──『オーランド』への出演はどんな心境で挑まれたのでしょうか?

 最初にお話をいただいたときは、『オーランド』というものがどういうものなのか、まったく理解していませんでしたが、脚本を読んでみると作品の中に僕の知らない時代がたくさん描かれているので、それがすごく面白いなと思いました。

 また、多様性という言葉がいろいろな場面で使われるようになった今、表現すること自体が難しくて言葉にするのをやめたり、傷つけるかもしれないと思って言葉を止めてしまったり、なかなか言語化できないようなモヤモヤした感情を抱いたときに、このモヤモヤとはこうだったのかなという答えのようなものが見つかる作品だとも思いました。

──主人公のオーランドを演じる宮沢りえさんにはどんな印象をお持ちですか?

 宮沢さんとはバラエティー番組でご一緒したことはありますが、舞台で共演させていただくのは初めてです。舞台は何度か拝見していますが、印象に残っているのを挙げるとしたらチェーホフの作品でしょうか。ただ、舞台上では役を演じていらっしゃるから、実際のりえさんがどういう人なのかはわからないので、“どれが本当のりえさんなんだろう?”と思いながら拝見していたことが印象として残っています。

 常に期待されて、求められ、長年にわたって舞台に立ち続けてこられた方の素晴らしいお芝居を間近で見られる喜びがありますし、ひとつひとつの台詞を受け取ったり、稽古などで会話ができたりすることが嬉しいです。いろいろなお話を聞きたいと思っていますし、そういうチャンスが与えられただけでも本当に幸せですね。

──本作の脚本を読んだときにご自身のお考えに通じるところがあると思われたそうですが、どういうところにそのように感じたのですか?

 とても感覚的なことなのでお伝えするのはすごく難しいのですが、僕の中でわかりやすいのはイギリスに1年半ほど留学して帰ってきて、感じたことと似ているんです。僕自身はあんまり変わっていないはずなんですが、世の中がガラッと変わっていたために、自分も変わったように感じる瞬間があります。

 『オーランド』の中に描かれていることにも、時代が変わったことでまわりが変わると、まわりに動かされたかのような気持ちになっていると思いました。つまり世間の常識が自分の常識になってしまうということがあって、自分が素敵だなと思っていたことが、実はまわりに勝手に決められてそう思ってしまっているということです。

 それがこの作品の本質かどうかはわかりませんが、作品と向き合うことで“自分って何なんだろう”という俯瞰するところへ行き着く瞬間があって、普通に生きていたら微塵も思わないことを気づかされる機会になっていると思いました。

──お話にもありました通り、ウエンツさんはこの作品の舞台でもあるロンドンに2018年に1年半ほど留学をされましたが、どういう理由で滞在先としてロンドンを選んだのですか?

 何度行っても居心地がよくて、好きだからです。ニューヨークの明るい夜と比べてしまうんですが、ロンドンには暗さとか、影があるというか、夜になるとちゃんと暗くなるところが良いですね。

 僕は性格的に、人が動いているのを見ると、自分はどうして動いていないのだろうと気になってしまうんです。少なくとも僕が知っているロンドンの一部で、僕のまわりにいてくれた人たちは夜になるとゆっくり過ごすという感じで、僕にもそうすすめてくれたので、それがすごく居心地がいいと思いました。

2024.06.28(金)
文=山下シオン
写真=佐藤 亘
ヘア&メイク=豊福浩一(Good)
スタイリスト=作山直紀