ロンドン留学を経験して得たもの
──留学という経験を通して一番印象に残っていることとは?
留学のことを聞かれて最初に思い浮かんできたことは、出発までが大変だったことです。ロンドンに行くための実務的な準備はそれほど大変ではなかったのですが、“行く”と言い出してから、それが現実になるまでが2年以上ありましたので、その大変さはありました。留学することをどのように話すとか、まわりの気持ちを汲むとかも含めて、きっとそこから学びが始まったのだろうと思います。
──ロンドンに暮らしたことは、ご自身にとってどんな意味があると思いますか?
留学は帰国後に自分の仕事を充実させるためという目的ではなかったですし、むしろ自分と仕事を分離させたかったのだと思います。僕は本名で仕事をしていますから、今思えば、それまでは自分の人生と仕事がへばりついている感じがあったのかなという気がします。
スケジュール帳を持たないという生活は、僕の人生において初めてのことだったので、人間の根源的な生活というと大げさですが、1日中寝ていたら、どんな気持ちなんだろうということを試してみました。別に罪悪感はないんだなと、自分で確かめるような感じで一歩ずつ歩んでいきました。
またいつかロンドンに行くとしたら、今度は行きっぱなしになるのではないかと思います。それは旅行とも違う「生活」で、長期間滞在したことに意味がありましたし、ある程度長く滞在しないとわからないことがいっぱいあることを知りました。ですから、何か新しいものを見出すという意味で行くとしたら、そのままずっとロンドンにいることになるのではないでしょうか。
幸運だと感じる瞬間は、心も体も健康であること
──これまでの人生で、どんなことに幸運だと感じていますか?
ひとつは今も仕事をしていること、もうひとつは本当に単純なことですが、健康でいられたことでしょうか。丈夫に生んでもらえて、留学の1年半という大きな穴を空けたことはありますが、これまでずっと仕事を続けてこられた要因のひとつではあると思います。心も体も健康でいられたのは、すごく幸運だと思います。
特に健康の秘訣はありませんが、変わらずにやっていることを挙げるとしたら、家で食事を取るときは、ごはんは玄米、パンは全粒粉と決めています。あと、納豆とキムチは1日のうち1食は必ず食べていますね。だからといって、すべてをそうしようとは思っていないので、食後に板チョコを2枚くらい食べたり、暴飲暴食したりすることもあるので、健康に気を遣っているとは言いがたいですね(笑)。
──オフの時は何をして過ごすのがお好きですか?
掃除好きなので、ずっと掃除をしています(笑)。実は、昨日も“ニトリ”に立ち寄って掃除道具や収納用品などを大量に買いました。
いったん始めると徹底的に掃除をするので、キッチンだと棚から食器をぜんぶ出してきれいに拭いて、食器をきれいに並べます。そういう作業をすることで、今まで掃除ができていなかったところが顔を出すので、そこがきれいになるのがいいですよね。僕は特に稽古が始まる前に断捨離などをしがちでして、舞台に入るということで自分が自分でなくなってしまう感じがあるので、自分が自分であるうちにやりたいこときちんとやろう気持ちで掃除をします。
舞台が始まると自分から離れてしまって、部屋が汚くなっていくことが目に見えているから、きれいにしておこうと思うんでしょうね。“あの役だったら、本当に片さないだろうし、片したいという気持ちがなくなってしまうだろう”という程度のことではありますが、実際に自分の日常生活に影響が及ぶんです。
役作りをしていると、この役はこういうときはきっとこうするだろうなと想像してしまって、箸を置くことをひとつとっても、きっとこういう風に置くだろうなと思いながらやって、出来上がっていくことがあります。それが積み重なると家の中はしっちゃかめっちゃかになってしまいます(笑)。でも、稽古に休みがあると、“役から一回離れてもいいんだ”という気持ちになるので、稽古休みの前日は急に片すことがあります。
──お休みの日にきれいになったお部屋ではどのようにして過ごしますか?
テレビもつけず、音楽もかけずにソファに仰向けになって天井を見ているのがわりと好きですね。ただじーっと見るだけ。怖いと思われるぐらいずっと天井を見ています(笑)。
──旅をする時には何を目的にすることが多いですか?
僕の旅の目的は人と触れ合うことです。旅の目的地は、いつも迷うことはなく、今ここに行くべき何だろうという感じで、意外と自然に定まります。
旅先ではひとりでなんとなく入った居酒屋で、そこのお父さんと仲良くなって、そのままお父さんの家にちょっと泊まらせてもらったこともありました。だから、いわゆるホテルのような宿泊施設にはあまり泊まることもありません。
今回も稽古前に北海道へ行きました。泊まったところは全部ペンションで、同じように観光している方達と一緒に食卓を囲むんですが、そういうのが一番楽しいですね。旅としては少し特殊かもしれないですが、人と出会い交流できるのが良いと思います。
──『オーランド』を観劇するCREA読者に向けて伝えたいことは?
まずはオーランドのようにいろんな時代を生き抜いてきた宮沢りえさんという女性を生で観ることが刺激的で、それだけでもいろいろと思うところがあるんじゃないかなと思います。そして、すでにお話ししたように、言葉に出来ないようなモヤモヤを、ストンと落としてくれるお芝居になるはずなので、作品を通してスカッと味わえる爽快感をぜひ体感していただきたいです。
ウエンツ瑛士
1985年、東京都生まれ。4歳から子役、モデルとして活動する。2002年に小池徹平とともに音楽デュオ・WaTを結成。作詞作曲を手がけるなど、シンガー・ソングライターとしても活躍。俳優としてはNHK大河ドラマ『利家とまつ』や映画『ゲゲゲの鬼太郎』などの話題作に出演。直近では映画『湯道』(23年)、ミュージカル『太平洋序曲』(23年)、『アンドレ・デジール 最後の作品』(23年)などに出演。
PARCO PRODUCE2024『オーランド ORLAND』
【埼玉公演】2024年6月29日~30日
問合せ:サンライズプロモーション東京 電話番号 0570-00-3337(平日12時~15時)
【東京公演】2024年7月5日~28日
問合せ:サンライズプロモーション東京 電話番号 0570-00-3337(平日12時~15時)
【愛知公演】2024年8月1日~4日
問合せ:プラットチケットセンター 電話番号 0532-39-3090(10時~19時 ※休館日を除く)
【兵庫公演】2024年8月8日~11日
問合せ:キョードーインフォメーション 電話番号 0570-200-888(11時~18時 ※日曜・祝日休)
【福岡公演】2024年8月16日~18日
問合せ:サンライズインフォメーション 電話番号 0570-00-3337(平日12時~15時)
https://stage.parco.jp/program/orlando2024
2024.06.28(金)
文=山下シオン
写真=佐藤 亘
ヘア&メイク=豊福浩一(Good)
スタイリスト=作山直紀