自己評価があまり高くない主人公の琴美は、80万人いるフォロワーの心情に全面的に寄り添う「全肯定インフルエンサー」で親友でもあるミアから「いつまでも、弱くて可愛いままでいてね」と言われ、居心地の良さを感じています。そんな日常が、思いを寄せる男性の失踪と、失踪直前に起きた「チワワテロ」(知らないうちにチワワのピンバッジが服などに付けられてしまう事件。失踪した男性を含む800人に付けられていた)によって大きく動いていきます。
前代未聞のチワワテロの真相は? 「ずしんと心に残る傑作」
琴美はミアとともに男性の行方を追いかけながら、チワワテロの謎へと迫っていきます。チワワフェス監禁事件、“傷の会”を名乗る集団の策謀など事態がめまぐるしく動いていく中で、現実社会へと侵食していく「チワワテロ」の影響。首謀者は誰なのか、そしていったい、何の目的でこんなことを行ったのかーー。
芥川賞作家の高瀬隼子さんが「待って、こわいこわいこわい。現代の弱肉強食を眼前に突き付けられた気分」と評し、『明け方の若者たち』で知られる作家のカツセマサヒコさんも「みんなの心の中、そんなに照らさないでください。ずしんと心に残る傑作です」と絶賛した作品です。
物語を通じて、琴美の心は徐々に変容していきます。それはミアとの関係も変わっていく、ということ。これまでに味わったことのない読後感が押し寄せる、驚愕のラストに注目です。
3『K+ICO』上田岳弘 著
ウーバーイーツのデリバリーバッグ=“負け組ランドセル”という、世界の残酷
今年デビュー10周年となる芥川賞作家の上田岳弘さんの最新作『K+ICO』の主要な登場人物は、2人の大学生。
ウーバーイーツの配達員であるKと、人気TikTokerのICOです。
上田さんは最近知って衝撃を受けたネットスラングとして“負け組ランドセル”を挙げ、執筆の動機をインタビューでこう話しています。
「(“負け組ランドセル”という言葉は)ウーバーイーツの配達員たちが背中に黒い巨大なバッグを背負っている姿が、低学年の小学生が体に似合わないほど大きなランドセルを背負っている姿に似ているところから来たようです。
2024.07.02(火)
文=「本の話」編集部