内田 はい、何もかも開けっ広げで、誰かに対してじゃなく、自分に対してのプライドの所在がはっきりしてましたね。母との付き合いはどのように始まったのですか。

窪島 2015年のこと、彼女が突然、やってきたんです。一目見れば樹木希林さんだというのはわかった。その大女優さんが「会いたかったのよ、あなたに」と言うものだから、びっくりしちゃった。児童文学作家の灰谷健次郎さんから、しょっちゅう僕のことを聞かされていましたって。

内田 灰谷さんとは、母は自称“がん友だち”だったから。

窪島 僕は無謀にもその場で「無言館では毎年4月29日に新成人たちが、彼らと同世代である戦没画学生の絵を前に決意を新たにするという『成人式』を開催しています。来年のゲストとして来てくれませんか」と頼んだんです。後日、希林さんの直筆で「引き受けさせていただきます」と書かれたハガキが届いた。ろくに式の説明もしていないのに。

 さらに金沢での表彰式の帰りに、打ち合わせのために上田に寄ってくれるという。「でも、有名人をどこへお連れしたらいいものか」と迷っていたら、「一番いいのは駅の待合室よ。サインを求められても写真を撮られても、ちょっと我慢していればみんな次の列車に乗って行っちゃうから」とおっしゃった。

 そして当日、駅で待っていると、当然グリーン車から降りてくるものと思っていたら、自由席からトコトコ歩いてきた。それで、「8000円浮いた」って自慢げに言うんです。

内田 主催者側がグリーン車を取ってくれたのに、払い戻したんですね。母がやりそうなことです。

窪島 すばらしい。僕は惚れちゃいましたよ。待合室ではなく、その8000円で2人でウナギを食べに行った。なんて楽しい食事だったんだろうと思い出します。印象に残っているのは、「私ね、あなたみたいなワイルドには慣れてるのよ」だって。

内田 はい、ものすごくワイルドなロックンローラーが近くに1人いましたから。

2024.06.25(火)
著者=内田也哉子