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非常時でもおいしいコーヒーでほっとしてほしい

隆志さん しかも、当時は「カフェ」という言葉自体が今のように浸透していたわけではなく、喫茶店というほうが理解されていた時代でしたしね。鎌倉には、昔ながらのいい雰囲気の「門」や「イワタ」「扉」といった喫茶店があって、残念ながら「門」は北鎌倉店のみになってしまいましたが、他の2店は代替わりして今も人気です。

――つまり、喫茶文化はあったわけですね。それから雰囲気は変わりましたか?

隆志さん 今の鎌倉は、30年前に比べると自由度が上がったかな。若い人たちも増えて活気があると思います。

 じわじわやってくる時代の移り変わりを目の当たりにしながら、常に自分たちの道を信じ、コーヒーともフードともひとつひとつていねいに向き合い、努力を惜しまず歩き続けてきた30年。その間には、記憶に新しいところでは世界中が沈黙の数年を送らざるを得なかったパンデミックがあり、その前には東日本大震災も。鎌倉は計画停電が実施され、仕入れたばかりのエスプレッソマシンを前に呆然とした、とおふたりは話してくれました。

――東日本大震災やパンデミックのような過酷な状況の中でも、お店を開けることで今までいらしてくださっていたお客さんたちが少しでもほっとしてくれたらとの思いで、スタッフを入れずにたったふたりでお店を開けていた時期もあったそうですね。

堀内千佳さん そう、やっぱりコーヒーを飲むとほっとしますからね。(本をめくりながら)30年、数えきれないほどさまざまな出来事がありました。うれしいこと、楽しい思い出もたくさんだし、人との出会いがあって、助けられながら今の自分たちがいるんですよね。

2024.06.25(火)
文=赤澤かおり
写真=榎本麻美