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 チケットが手に入らない――。ミュージカルラバーの人たちの嘆く声が聞こえてくるほど、“ミュージカル界のプリンス”と呼ばれる井上芳雄さんが出演する作品は常にチケット難。

 そんな井上さんが、6月17日にWOWOWで生中継される、アメリカの演劇及びミュージカルに贈られる最も権威ある賞として知られる『トニー賞』授賞式のナビゲーターを務めるそう。番組の見どころや今年の傾向、また、井上さんご自身のミュージカルへの想いなどをたっぷりと伺いました。

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『ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル』では“若さを保つ”努力を

――インタビュー前篇に引き続き、トニー賞のノミネート作品について伺いますが、井上さんが個人的に「これ、やってみたい!」と思われる作品はありますか。

 『ノートブック』ですね。映画『君に読む物語』のミュージカル版です。映画が好きなのですごく興味もありますし、カップルの歴史を3つくらいの時代に分けて描いているので、自分がやれる年代もあるんじゃないかなと思っていて。とても興味があったのですが、残念ながら作品賞の候補には残りませんでした。

――『ムーラン・ルージュ! ザ・ミュージカル』のお話も出ましたが、この作品もトニー賞を受賞していますし、井上さんは昨年に引き続き今年も出演されます。新しいクリスチャン像に挑戦したい!などありますか? 今の心境を教えてください。

 いや、クリスチャンが若い役なんで、僕にとってはその役をやること自体がチャレンジみたいなところがありまして……(笑)。役の上で“若さを保つ”というのが精一杯ではあるんですが、お客様は前回の初演のときもすごく盛り上がって下さり、楽しみ方をさらに理解したうえで今回も劇場にお越しいただけるんじゃないかと。もちろん初めての方もいらっしゃると思うので、より盛り上げていきたいですね。

 もちろんストーリーを伝えていくという部分も大切ですが、『ムーラン・ルージュ! ザ・ミュージカル』はお客様と僕たちが一緒になって楽しむ要素がたくさんあるので、どんどんテンションを上げていきたいなと思っています。

――いわゆる【トニー賞受賞作品】と呼ばれるものは、ほかのミュージカルと違う何か、みたいなものがあると感じられますか?

 例えば、食べログの点数的なところはあるかもしれないですね。安心感があるとか、保証されている感じがあるとか……。僕たちも「トニー賞を獲った作品に携われて嬉しい」というのはあります。

 でも一番は、それを製作した本国の方々のプライドが違うかな、という気がします。スタッフの方々から、「これはトニー賞を獲った作品なんだ!」という気持ちがすごく表れていますね。

自分が出演する作品を選ぶのは、心が動く場所があるかどうか

――井上さんはミュージカル以外のストレートプレイにも数多く出演されていますが、ご出演になる作品選びはどのようにされているのでしょうか。

 難しいんですよね……、ジャンルも多岐に渡っていますし……。でも基本的にはやはり台本を読んで、やってみたい要素があるかどうかを考えます。向き不向きってあると思うのですが、それは自分では分からなかったりするんです。だから、自分の中で“落としどころ”というか、感動するところ、心が動く場所があるかないか、みたいなことが大きいと思います。台本もそうですし、ミュージカルだと音楽も含めてですね。

――最近ご出演になったミュージカルで、ご自身から出演を切望されたものはありますか?

 昨年秋に出演した『ラグタイム』は1998年にトニー賞を受賞していますが、ずっと名作として評価されていたのに、人種の物語ということもあり、日本ではなかなか上演できなかった一本です。もちろん僕はこの作品のことを知っていましたし、日本で上演されるのであれば携わりたいというのは、ずっとありました。

 昨年は『ムーラン・ルージュ! ザ・ミュージカル』の本番をやりながら『ラグタイム』の稽古をしていました(笑)。そうでもして出たいと思っていた作品でしたし、結果、日本でもとても高い評価を頂きました。国も文化も違うので、タイミングや、やり方、演出の仕方など、“日本ならでは”というエッセンスが必要だったりするんですが……。僕自身は、できるだけ新しい挑戦を続けていきたいと思っています。

2024.06.13(木)
文=前田美保
写真=深野未季