その他、終生献身的に支えてくれた妻との出会いや最愛の息子との別離など、周囲の人物との関わりを経て、研究に邁進し、己の世界を深めることだけに専心していた熊楠の心境に次第に変化が訪れる。
「描きたかったのは、熊楠も自分たちと同じ生身の人間であること。だからこそ、彼が経験した学問的な栄光も挫折もより深く理解できるのではないかと思います。初めての歴史小説に挑んでみて、大変さと面白さを実感できました。史実という制約があってしんどかったのは事実ですが、制約があるからこそ生まれたシーンが幾つもあった。これからも書いていきたいと思っています」
次はどんな手札で我々を楽しませてくれるのか。目が離せない。
いわい・けいや 一九八七年生まれ。大阪府出身。北海道大学大学院農学院修了。二〇一八年『永遠についての証明』でデビュー。二三年『完全なる白銀』で山本周五郎賞候補に。
(「オール讀物」6月号より)
われは熊楠
定価 2,200円(税込)
文藝春秋
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2024.05.29(水)