――現役の弁護士の先生でも知らないことがドラマに。
國本 あとは、民法761条の日常家事債務規定(夫婦の連帯責任について定めた法律)が出て来たときもあまりにマニアックで驚きました。僕は「虎に翼」を見るまで、戦前の既婚女性に法律行為能力がなかったことと、今もある日常家事債務の話がつながっているなんて考えたこともありませんでした。
――どういうことでしょう?
國本 戦後に日本国憲法ができた時に、既婚女性の権利能力を認めない条項は憲法違反なので廃止されましたが、日常家事について夫婦が連帯責任を負うルール自体は残りました。でもこの2つは、元々はセットだったんです。既婚女性に権利能力がなければ、買い物も何もできない。だから夫の男性に連帯責任を負わせる必要があったんでしょう。
司法試験は基本的に今ある法律を勉強するので、戦後に憲法ができて廃止された法律のことは歴史として軽く学ぶくらいで深くは知らなくても合格できるんです。だからドラマを見ても、そのつながりが最初はピンと来ませんでした。放送後、他の弁護士の投稿を見て「そういうことだったのか!」と気付いたのです。
――ここでも、司法試験にも出てこないマニアックな話がドラマになっているんですね。
國本 そうなんです。寅子の父親が巻き込まれた事件の元ネタの「帝人事件」は有名なようですが、僕は全然知りませんでした。第2週で登場した、DV夫との結婚が破綻した妻が嫁入り道具の着物を取り返そうとした「引き渡し請求事件」も司法試験受験生が読む程度の判例集には載っていない小さな事件です。だから僕は、SNSで他の弁護士や出版社の方が「出てきたあの事件の元ネタは……」と解説してくれるまで、実際の事件をモデルにしているかどうかすら判断がつきませんでした。脚本を書いた方は一体どうやって調べたんでしょうね。
――國本先生がSNSで「脚本侮っててすんませんでした」と謝罪する“事件”もありましたね。
2024.05.24(金)
文=田幸和歌子