「ここまで詳しく調べているドラマだから」という信頼感

――引っかかるところと言うと?

國本 例えば「被告」と「被告人」という言葉の使い方です。民事事件では「原告と被告」、刑事事件は「検察官と被告人」と呼ぶのが現在のルールです。なので、刑事事件なのに弁護士が「被告」と言っているドラマがあったら、その時点で「これはダメだな」とわかるんです。でも『虎に翼』の場合は「ここまで詳しく調べているドラマだから、あえて使っているのかもしれない」という信頼感があります。

  寅子の父親の贈収賄事件で、大庭長男の台詞で刑事事件なのに「被告」という言葉が出てきますが、佐藤倫子弁護士がSNSで紹介していた帝人事件の弁護人の弁論要旨を見ると、たしかに「被告」という言葉を使っているんですよね。それで「戦前は刑事事件でも『被告』を使っていたんだ」と知りました。やっぱり本作脚本家の方が僕の認識よりも整合性が高く正しい(笑)。

――おもしろいです。他にも気になったところはありますか。

國本 寅子の家に検察が捜索に来て捜索令状を出すときに、寅子の父を「勾留した」と言ったのも少し引っかかりました。勾留は、逮捕の後に証拠隠滅や逃亡を防ぐために引き続き身柄を拘束することで、家宅捜索はだいたい逮捕の時が多いんです。それでいろんな可能性を考えましたが、ストーリーではその日に父親は逮捕されていたので、「逮捕したその日に勾留」だったようですね。もしかすると戦前にはそういう運用があったのかもしれないなと思いました。

 

寅子の言い方が「法律は~」から「法は~」に変わる意味

――言葉の1つ1つが法律では厳密ですよね。

國本 そうですね。「法律」と「法」も、『虎に翼』はかなり意識的に使い分けている気がします。

――法律と法……どう違うのでしょう?

國本 「法律」は国会が作った条文そのもので、条約や憲法のような上位のルールによって縛られているし、選挙で選ばれた国会議員が変えることができる。極端に言えば「悪い法律」だってあります。

2024.05.23(木)
文=田幸和歌子