ただ、猫って結構、こちらの気持ちを見透かしているような気がして。
――シャッターチャンスを狙ってギラギラしていると感じとられているような……?
沖 そうそう。こっちが狙ってるときはずっと寝てて、今日は無理かな~と思って帰り支度をし出すと、面白いことをはじめたりするんです。
あとは、長時間歩いたり止まったりしているので、暇と言ったらあれですけど、考える時間が多いんですよね。
でも、そうすると、いざシャッターを切るときにほんの少し迷いが出てしまうんです。眼の前の“今”でなく、頭の中に気をとられた結果しくじることが山ほどあるから、余計なことは置いておく。で、撮れなかったとしても、「仕方ない」で終わらせるようにしています。
自分はどれだけ気をつけて近づいても猫に逃げられるのに、猛スピードで横切っても逃げられない「爆走おばちゃん自転車」
――猫との距離感で気をつけていることはありますか。
沖 撮影しはじめた最初のとき、音を立てないようにすごく気をつけて近寄っても、猫に逃げられてしまうことがあったんです。でも、僕だと逃げてしまう猫が、買い物かご一杯に荷物を入れて猛スピードで横切ってくおばちゃんのチャリンコにはなぜかまったく動じなくて。
「僕の方がよっぽど猫に気ぃ遣っとるぞ」と思ったけど、考えてみたら、そのおばちゃんは毎日その時間にチャリンコで爆走してて、音はするけど、自分にとっては害がない人間だと猫がわかっているんですよね。
――沖さん側が気を遣っていても、猫側の受け止めは違ったんですね。
沖 僕はきまぐれに来て挙動不審だから、猫にとっては怖い存在だったんだと気がついて。だったら、僕がいつも同じ時間帯に来て、何かしてるみたいだけど脅威ではないのね、と猫が思うくらいその場に溶け込めれば、いい写真が撮れるんじゃないかと思ったんです。
――かといって、仲良くなるわけでもない?
沖 僕に会って喜んでゴローンとかってなっちゃうと、僕と猫の関係性で表れる感情しか見えなくなるじゃないですか。その感情を撮りたいなら問題ないのですが、僕は「僕の知らないことをしている自然な猫」をとらえたいから、不要なんです。猫にとって空気のような存在になることは、自分の中では撮影のキーかもしれません。
2024.05.15(水)
文=小泉なつみ