渡辺 以前の私は、SNSで人と繋がることで色んなことができるんじゃないかと思っていて、フェミニズム的なことや政治的なことを発信していれば、自分と近い人とつながれて、勇気づけられる気がしたんです。それでせっせとSNSで投稿していたんですが、何度かいわゆる「炎上」に近い状態を経験して最終的には自分にはSNSは無理なんだと判断して全てやめました。
――それはどういう事態だったのですか。
渡辺 大きくまとめてしまうと、ある話題についての私の態度が不誠実で差別的ではないかという疑念を一部の方々に持たれ、糾弾のような状態にエスカレートしたことがありました。私は端的に語れる自信がなかったのでSNSでは一切発言はしていなかったのですが。
――簡単に想像できます。
渡辺 それ以前にも、あるキャラクターのバレンタイン企画での男女差別的な発言を批判したら、それが広く拡散して大き目な炎上になったこともありました。でも、全く考えの違う立場の人から責められるのはそんなに傷つかなくて、やはり近しい立場だと思っていた人たちに疑惑の目を向けられるのはつらかったですね。
「私には今のSNSを使いこなすのは無理だとわかりました」
――SNSは肯定と否定が一瞬でひっくり返りますよね。
渡辺 その件を通じていろいろ考えましたが、すべての話題の問題に対して精通して正しく理解し、反対か支持するか即座に表明するというのは私には難しすぎるなと。ただ思い返すと私自身も他人に対して「どうして身近なはずのこの話題には黙っているんだろう」とか思っていたんですよね。だから、自分が他者に向けていたものが自分に返ってきたのだと思っています。SNSが隠れていた声や問題を明るみに出したり、励みになることも多くあると思いますが、私には今のSNSを使いこなすのは無理だとわかりました。
――SNSをやめてみて、精神的に変化はありましたか?
渡辺 以前は漫画を描くときも、机に座ってタブレットに向かいながらずっとSNSを見ていて完全に依存していました。今はその時間とエネルギーを走ったり山に登ったりすることに向けていて、体力がついてめっちゃ元気になりました。
〈14歳の時に撮られたヌード写真を元に26年後に彫刻が作られ…「恋愛」と「加害」と「アート」の線引きはどこにあるか〉へ続く
2024.05.12(日)
文=田幸和歌子